PSCに対する新しい治療法として糞便微生物叢移植(FMT)の研究が進行中

英国のバーミンガム大学とインペリアル大学が共同で進めているPSCの患者さんに対する糞便微生物叢移植 (faecal microbiota transplant :FMT)の研究に、Lifearc社(※注1)という希少疾患の研究を支援している医学研究慈善団体が研究資金の提供を行ったという記事がありました。

糞便微生物叢移植と言っても、勿論、糞便をそのままの形で移植する訳ではなく、健康な人に糞便を提供して貰い、そこから抽出した微生物だけが含まれた液体を、内視鏡、浣腸、栄養チューブ、または特別な種類のカプセルなどの手段で患者さんの腸内に送達します。なので、「糞便」という言葉からくる心理的な抵抗感は実際の処置に際しては、それ程無いかと思われます。

この試験を主導しているバーミンガム大学のパラク・トリベディ博士は、「私たちの試験でFMT(糞便微生物叢移植)がうまく機能することが示された場合、この研究を完了してから5年以内に患者が恩恵を受けることを見込んでいます。」と述べています。

プロジェクト概要によれば、

 

https://www.lifearc.org/strategy/rare-disease-translational-challenge/rare-disease-research-funding/philanthropic-fund/funded-projects/

 

研究開始日は2022/2/1で研究期間は48ヶ月と言う事なので、研究完了は2026年の始め頃になるかと思われます。そこから5年以内となるとまだ先の長い話ではありますが、近年、PSCの主要な病因の一つとして考えられるようになった腸内微生物叢に直接アプローチ出来る貴重な治療法として今後の展開に注目していきたいと思います。

 ただ一点、非常に気になったのが、これまでに行われた糞便微生物叢移植の研究に関する論文を探してみた所、2つ見つかり、一つは、治療の結果、患者さんのALT値が低下し、有害事象も発生しなかったという有望なものでしたが、2つ目の論文は、糞便微生物叢移植によって、治療後一年間は肝機能検査値が大きく改善し、PSCの症状もなく過ごせていたが、患者さんの腸内微生物の存在量を調べた所、糞便微生物叢移植後4週間辺りの時点から既に、PSCの患者さんの腸内から高確率で検出されPSCの原因の一つではないかと疑われているクレブシエラ菌とエンテロコッカス菌の増加が見られていたとのことで、この治療は短期的には症状を改善し、移植無し生存期間を延長する効果があっても、長期的に見てメリットばかりとは限らないのでは無いかという事です(勿論、クレブシエラ菌やエンテロコッカス菌の増加は、糞便微生物叢移植とは無関係な別の要因によって引き起こされたものである可能性もあります)。今回のバーミンガム大学とインペリアル大学の共同研究によって、糞便微生物叢移植のポジティブな治療効果だけでなく、リスクについても慎重に調査され、患者さんが安心して治療を受けれる状態で、実用化に繋げて頂きたいと思います。

(注1)Lifearc社とは

英国の医学研究機関であるMedical Research Councilを母体とする非営利の医学研究慈善団体で、研究室にある科学的なアイデアを患者さんの人生を変えるような医学的なブレークスルーに変える支援を行っています。LifeArcはこの活動を25年以上継続しており、5つのライセンス医薬品や、抗生物質耐性の診断薬などを生み出しています。LifeArcは、未だ満たされていない医療ニーズの高い分野に2030年までに13億ポンドを費やすことを約束しています。

http://www.lifearc.org/

 

希少肝疾患を治療するための独自の方法を調査する新しい研究

ベンジー・コールマン著        2022年2月15日

 

https://www.imperial.ac.uk/news/233874/new-study-explores-unique-approach-treat/

 

体が自己の肝臓を攻撃する希少疾患を治療するために腸内細菌を変化させる新しいアプローチを使用する新規の研究に資金が提供されました

 

バーミンガム大学のPalak Trivedi博士によって主導され、インペリアル大学の研究者たちと共同で進められているFARGO (FAecal microbiota transplantation in primaRy sclerosinG chOlangitis : pscにおける糞便微生物叢移植) 試験では ”faecal microbiota transplant:糞便微生物叢移植(FMT)” がPSCの進行を遅らせ、患者の生活の質を改善する事ができるのかどうかが分かります。

PSC は、英国で約3,600人が罹患している稀な肝疾患です。あらゆる年齢層でこの症状を発症する可能性がありますが、最も一般的なのは40歳未満です。

PSCでは、体の免疫系が肝臓を攻撃し、胆管の炎症と瘢痕化を引き起こします。これにより胆汁の適切な流れが停止し、患者は感染症を繰り返し、肝不全を発症し、場合によっては癌を発症します。5 人中 4 人では、体の免疫システムが腸も攻撃し、肝臓病だけでなく炎症性腸疾患 (IBD) を引き起こします。PSC と IBD の組み合わせにより、全患者の約 3 分の 1 が大腸がんを発症する可能性があり、患者は大腸がんのスクリーニング(※注2)のために毎年結腸内視鏡検査を必要とします。 

 

(注2)スクリーニング検査とは、選別試験、ふるい分け試験のことで、症状のない者やある特定疾患が懸念される集団を対象に検査を行い、目標とする疾患の罹患者や発症が予測される患者を検出するための検査である。

 

PSC患者の腸内に存在する微生物は、肝臓や腸に炎症がない人の腸内微生物とは異なることが知られています。この腸内微生物の不均衡は多くの異常な免疫機能と関連しており、それがこの症状の発症を引き起こす可能性があります。  

FARGO研究では、研究チームは健康なドナーの腸から天然微生物を含む便を採取し、研究室で精製してPSC患者の腸に移すことで腸内微生物の不均衡を逆転できるかどうかを調べる予定です。この治療法は、糞便微生物叢移植 (FMT) と呼ばれます。初期の研究では、炎症性腸疾患の治療にも役割を果たす可能性があることが示されています。

代謝・消化・生殖部門の研究者 は、バーミンガム大学、ロイヤル・フリー・トラスト、ノーフォーク大学病院とノーリッチ大学病院の研究者と協力して、この新しい治療方法をテストする臨床試験を実施する予定です。この研究に参加するPSC患者は、週に1回、8週間にわたってFMTを受けるか、偽薬(不活性なFMTに相当するもの)のいずれかを投与されます。各グループは引き続き、炎症性腸疾患 に対する通常の日常的な標準治療を受けます。

 

研究チームは両グループをさらに40週間観察する予定です。その後、チームは肝臓血液検査の改善、肝臓の瘢痕化の軽減、炎症性腸疾患の重症度の軽減、症状と生活の質の改善において、治療がどの程度成功したかを測定します。

治験に参加したインペリアル大学のチームの一人であるベン・マリッシュ博士は、「当部門は長年にわたり、腸疾患や肝臓疾患を助けるための糞便微生物叢移植の研究に深く関わってきました。治験の臨床面を支援するだけでなく、インペリアル大学チームはまた、国立現象センターの最先端のメタボロミクス技術(※注3)を使用して、研究参加者から収集したサンプル中の胆汁酸やその他の化学物質を分析する予定でもあります。これは、FMTが患者を助けるメカニズムを、これまでの研究では行われていない詳細なレベルで調査するのに役立ちます。」

 

(注3)メタボロミクスとは、生命活動によって生じる代謝物を網羅的に解析することで生命現象を明らかにしようとする研究分野

 

NIHR(国立衛生研究所)バーミンガム生物医学研究センターでこの試験を主導しているパラク・トリベディ博士は、「この研究は、どの腸内微生物が最も重要なのか、そしてこの潜在的な治療法をより多くの人を治療するためにどのように拡大できるのかを理解するのに非常に役立ちます。私たちの研究は、FMTもっと世界中で利用できるようにするためのより大きな将来的な作業の基礎を築くでしょう。」と述べました。

 

「私たちの試験でFMTがうまく機能することが示された場合、PSC supportは患者にできるだけ早くFMTを利用することを推奨します。これにより、私たちがこの研究を完了してから5年以内に患者が恩恵を受けることを見込んでいます。」

現在、医師は症状の管理のみによってPSCを治療しています。PSCの原因は完全には理解されておらず、治療法もありません。肝移植が唯一の救命治療法です。非常にまれな疾患ではありますが、PSC は英国における肝移植全体の 10 件に 1 件を占めており、現在ヨーロッパのいくつかの国で肝移植の主な理由となっています。

肝移植は命を救うものではありますが、リスクを伴うものであり、NHS(英国の国民保険)にとっては費用もかかります。移植を受けた人は、新しい肝臓が拒絶反応を起こさないように複数の薬を服用しなければなりません。PSCは肝移植を受けた人の約3分の1で再発する可能性があります。

この研究に不可欠な資金は、LifeArc と患者主導の組織であるPSC Supportから提供されています。

LifeArc のカトリオナ・クロンビー博士は次のように述べています。「資金提供に対する私たちの働きかけは、他者と協力して、患者が直面する複雑な医療問題を解決できるかもしれない有望な研究の可能性を明らかにすることです。PSCサポートと共同でこのプロジェクトに資金提供できることを嬉しく思います。これにより、トリベディ博士のチームは鍵となる疑問に答えを出す事が出来、この実験的治療法を研究室のアイデアからPSC患者に希望を与えることができる診療所へと移行させる事ができるでしょう。」


続いては、これまでに行われたPSCの患者さんに対する糞便微生物叢移植の小規模な臨床試験についての2つの論文を紹介します。

1つ目は

10人のPSC患者さんを対象としたパイロットスタディ(※注4)で全体の30%(10人中3人)に50%以上のALTレベルの低下が見られ、有害事象を経験することもなく、PSCにおけるFMT(糞便微生物叢移植)の安全性を実証する事が出来たと言う事です。

 

(注4)パイロットスタディとは:

本格的に研究プロジェクトを開始する前に、その研究デザインの実現性を見極めるために行う予備的な小規模調査です。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30730351/

 

2019年7月

原発性硬化性胆管炎患者における糞便微生物叢移植:パイロット臨床試験

概要

背景: 原発性硬化性胆管炎 (PSC) は、有効な医学的治療法がない胆汁うっ滞性肝疾患です。腸内微生物叢の混乱が PSC に関連して報告されており、他の疾患の状態においては、糞便微生物叢移植 (FMT) が微生物叢を回復することが報告されています。したがって、我々は、FMT後のPSC患者における安全性、肝酵素、微生物叢、およびメタボロミクスデータの変化を評価することを目的としました。

 

方法: 炎症性腸疾患を併発し、アルカリホスファターゼ(ALP)が正常値の上限の1.5倍を超えるPSC患者を対象とした非盲検パイロット研究が実施されました(注: 非盲検試験とは患者さんがどの何の治験薬を服薬しているかがわかる試験の事)。患者は結腸内視鏡検査による FMT を 1 回受けました。肝酵素データ、便微生物叢およびメタボロミクスの分析は、ベースライン(注:5)および FMT 後 1、4、8、12、24 週間目に実施されました。一次評価項目は安全性であり、二次評価項目はFMT後24週までにALPレベルがベースラインから50%以上低下することでした。(16S rRNA 遺伝子分析によって)糞便微生物叢 とメタボノミクス動態が評価されました。

 

(注5)ベースラインとは臨床試験等で、治療を開始する前または薬剤を投与する前の状態、もしくはそのときの患者さんの各種臨床検査値などのデータのことを指します。

 

結果: 10 人の患者が FMT を受けました。9人の患者は潰瘍性大腸炎を患っており、1人はクローン病を患っていました。平均ベースライン ALP レベルは 489 U/L でした。関連する有害事象はありませんでした。全体として、30% (3/10) が ALP レベルの 50% 以上の低下を経験しました。多様性は、FMT 後のすべての患者において、早くも 1 週目に増加しました (P < 0.01)。重要なことに、FMT 後の患者における生着OTU(こ注6)の豊富さは、ALP レベルの低下と相関していました (P = 0.02)。

 

(※注6) OTU(operational taxonomic unit): 細菌の必須遺伝子(一般に,16SリボソームRNA遺伝子)の塩基配列をコンピュータ上でその類似度を指標に分類したときに得られる単位をいう

 

考察: 私たちの知る限り、これは PSC における FMT が安全であることを実証した最初の研究です。さらに、細菌の多様性の増加と生着は、PSC 患者の ALP の改善と相関している可能性があります。

 

2つ目の論文は、肝臓移植後のPSC患者さんに特有の症状である再発性急性細菌性胆管炎(Recurrent acute bacterial cholangitis)に対する治療として糞便微生物叢移植を受けた患者さんについてのものです。(※Recurrent acute bacterial cholangitisで検索しても他の論文がヒットしないので、まだ広く認知された症状ではない可能性があります。若しくは逆に、一般的すぎて改めて論文に取り上げる必要性がないほどよくある症状なのか、、、。)

 

この患者さんは、週に一回合計4週間に渡って、糞便微生物の移植を受け、治療から9ヶ月後には治療開始時6.8あった総ビリルビンが2.0にまで減少し、ALTが128から56へ、ALPが456から214へ、γGTPが332から164まで低下しました。しかし、一年後に胆管炎を再発し、患者さんは再び糞便微生物叢移植の2サイクル目を受ける事を勧められましたが、これを拒否し、肝臓移植を受ける事を選択しました。この時、患者さんの腸内には治療開始時には存在しなかった病原性細菌が存在し、炎症促進性の腸内作用を有し、PSCの原因と成り得るクレブシエラ菌やエンテロコッカス菌が増加していたとのことです。これが糞便微生物叢移植による結果なのか、別の要因によるものなのか、それとも、糞便微生物叢移植の治療効果は短期的な実施では限定的になってしまうのかを明らかにするには更なる研究が必要ということです。

 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6328734


 

2018年12月28日

原発性硬化性胆管炎における再発性細菌性胆管炎に対する健康なドナーの糞便微生物叢移植 – 単一症例報告

 

概要

再発性急性細菌性胆管炎は、原発性硬化性胆管炎における肝移植に特有の症状です。我々は、原発性硬化性胆管炎患者における再発性急性細菌性胆管炎の治療に対する健康なドナーの糞便移植の有用性に関する最初の報告を発表します。我々は、再発性胆管炎の改善に関連する腸内細菌叢移植後の肝臓生化学、胆汁酸、細菌群集の顕著な変化を実証します。

 

導入

原発性硬化性胆管炎(PSC)は、慢性胆管炎症と肝臓内および/または肝臓外の胆管系の線維化を引き起こし、肝硬変、場合によっては胆管系の悪性腫瘍に繋がる、複数の病因機序を持つ稀な疾患です。現在利用可能な標準的な医学療法は全生存期間に利益をもたらさず、依然として肝臓移植(LT)が唯一の治癒的療法のままです。腸内微生物叢は、PSC の病態生理学における中心的な要因として関与してきました。

Tabibianと同僚らは胆道損傷に対する保護における共生微生物叢とその代謝物の重要性を実証し、PSCにおいて微生物叢に基づくバイオマーカーや治療的介入などの将来の指針を示唆しました。

 

微生物叢がPSCの病因および進行に重要な役割を果たしているという事実は、肝臓の生化学を効果的に改善することが示されているメトロニダゾールやバンコマイシンなどの抗生物質を利用した複数の試験を通じて証明されています。SabinoらはPSC患者の腸内微生物組成を調査し、PSCが炎症性腸疾患とは独立した独特の微生物的特徴を有することを実証しました。これらのデータは、腸内細菌叢の操作が PSC の疾患の進行に潜在的に影響を与える可能性があることを示唆しています。

 

Dominant stricture(※注7)の有無にかかわらず、集中的な医学的治療に反応しない再発性急性細菌性胆管炎(BC)は、PSC患者における肝臓移植に特有の症状です。私達はここで、PSCに関連した再発性急性細菌性胆管炎(BC)を有する患者さんの新しい臨床的データとメタゲノム(※注8)的データを提示します。

彼は肝臓移植のリストに掲載されていましたが、健康なドナーの糞便微生物叢移植(FMT)後1年間、細菌性胆管炎の症状が改善しました。

 

(※注7)Dominant stricture とは,径 1.5mm 以下の総胆管狭窄または左右肝管分岐部から 2cm 以内に存在する径 1.0mm以下の肝管狭窄と定義されている

 

(※注8)メタゲノム: 環境中のゲノムの集合体を指す。便中であれば、宿主・微生物・食物(動物・植物)由来のゲノムの集合体である。

 

症例報告

炎症性腸疾患を伴わないPSCと診断された38歳の非喫煙者でお酒を全く飲まない男性(炎症性腸疾患は現在の症状の3か月前に大腸内視鏡による粘膜生検で除外された)は、3年間、15 mg/kg/日のウルソデオキシコール酸(UDCA)投与を受けていましたが、 過去 6 か月以内に 3 回細菌性胆管炎を発症し、最後の発症では敗血症性ショックのため集中治療室への入院が必要でした。磁気共鳴胆道造影では、Dominant strictureが存在しない肝臓のセグメント 3、6、および 8 の部分にビーズ状の領域を伴い、左右の肝管における粘膜不規則性が明らかになりました。免疫グロブリン タイプ G4 の血清レベルの検査は正常で、それに関連する全身症状はありませんでした。炭水化物抗原 19-9 のレベルは、胆管炎がなければ正常範囲内であり、胆管癌を示唆する(臓器の)実質または胆管の病変は、続く追跡画像では明らかではありませんでした。

 

再発性細菌性胆管炎を考慮して、患者は肝臓移植のリストに掲載されました。待機リストに載っている間に、患者は持続性のそう痒症(かゆみスコア 6/10)と黄疸を 3 か月間発症し、4 回目の 細菌性胆管炎の発症を経験しました。過去の3度の細菌性胆管炎発症のうち2度は、それぞれセファロスポリン(※注9)とカルバペネム(※注9)に感受性のある大腸菌菌血症に関連していました。最近の細菌性胆管炎の発症は、リネゾリド(※注9)に感受性のあるエンテロコッカス・フェカリスに関連しており、患者は臨床的な改善を見せました。肝臓移植 待機リストに載っていることに伴う高い死亡率を考慮し、患者とその妻からのインフォームドコンセントを得て、(PSC の疾患の進行に潜在的に影響を与えるため) 健康なドナーからの糞便微生物叢移植による腸内微生物叢の操作が検討されました。標準的な選考手続きの後、患者の甥が潜在的なドナーとして割り出されました。

 

(注9)セファロスポリン カルバペネム リネゾリド: 抗菌薬の種類

 

処置の6 時間前に60 グラムの新たに採取した便サンプルを取得し、250 mLの生理食塩水とブレンダーの中で 2 ~ 4 分間均質化しました。200 ミリリットルの漉され、濾過された便を内視鏡を通して患者の十二指腸の 2 番目の部分に送りました。内視鏡による糞便微生物叢移植を週1回、4週間実施しました。この期間中はすべての抗生物質が差し控えられましたが、UDCAは継続されました。

 

血液生化学、総血清胆汁酸および分画血清胆汁酸、および便微生物群の分析が、ベースライン時、予定された各 糞便微生物叢移植の前、および治療後 1 年の終わりに実施されました。マイクロバイオーム(微生物叢)分析は、標準プロトコルに従って結腸糞便サンプルに対して実施されました。簡潔に言うと、シーケンシングは Illumina MiSeq 次世代シーケンサー (Illumina、カリフォルニア州、米国) (※注10)で実行され、GreenGenes (※注11)データベース (バージョン 13.8) に従って分類学的に分類されました。各細菌群集の種の多様性を記述するためにシャノン多様度指数(※注12)が使用されました。一方でQuantitative Insights into Microbial Ecology (QIIME)(※注13)、Phylogenetic Investigation of Communities by Reconstruction of Unobserved States (PICRUSt)(※注14)、およびKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG) パスウェイ(※注15)が定量的および定性的な微生物群集とそれぞれの機能経路を確認するために使用されました。

 

(※注10) シーケンシングとは:

DNA(核酸)を構成する4つの塩基であるアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の配列を決定する事。

次世代シーケンサーとは: 

核酸(DNAとRNA)の塩基配列情報を読み取る装置(シーケンサー)の次世代型。塩基配列を大量に読み取ることができる。核酸の塩基配列には、生物やウイルスなどの遺伝情報が記録されている。

MiSeqはイルミナ社のデスクトップ型次世代シーケンサー

 

(※注11)GreenGenes:

キメラスクリーニング、標準アラインメント、および複数の公表された分類学を使用して系統学的分類を提供する16S rRNA 遺伝子データベースです。マイクロアレイ、プロトコール、シーケンス、文献、タキソノミー概要などの情報がダウンロードできます。

 

(※注12)シャノン多様度指数:

生物の群集の豊かさを表すのに、群集の中での種ごとの個体数の配分という考え方を多様度指数といいます。

シャノン・ウィナーの多様度指数は 種数が多く、均等度が高いほど値も大きくなります。

自然環境では0.5~3.5の値をとることが多いです

 

(※注13)

QIIME (標準的には「チャイム」と発音されます) は、この分野で標準となっている多くのサードパーティ ツールを統合する、微生物群集分析を実行するためのパイプラインです。QIIME は、ラップトップ、スーパーコンピュータ、およびマルチコア デスクトップなどの中間システム上で実行できます。

 

(※注14)

PICRUSt (「パイクラスト」と発音) は、マーカー遺伝子 (16S rRNA など) の調査と完全なゲノムからメタゲノムの機能内容を予測するように設計されたバイオインフォマティクス ソフトウェア パッケージです。

PICRUSt はGPLに基づいて無料で利用できます。

 

(※注15)

KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes:日本語では「京都遺伝子ゲノム百科事典」の意味)は、遺伝子やタンパク質、代謝、シグナル伝達などの分子間ネットワークに関する情報を統合したデータベースであり、バイオインフォマティクス研究(注16)に利用される。このデータベースは、細胞レベルでの生命システムの機能に関する知識を、分子間相互作用ネットワーク(代謝、シグナル伝達、遺伝情報等)の二項関係に基づいた情報としてデータベース化し (PATHWAY)、これを中心に据えているのが特徴である。さらに遺伝子カタログ情報 (GENES)、既知のタンパク質間の配列相同性情報 (SSDB)、機能的類似性情報 (KO)、生体関連化学物質に関する情報 (LIGAND) などに関する各データベースを統合し、単なるカタログ的データベースではなく、生命の設計図を構築するための知識ベースを目指している。

 

(※注16)バイオインフォマティクス:

バイオインフォマティクスはその名の通り、バイオ(生物学)とインフォマティクス(情報学)という2つの学問分野の接点にある、学際的学問分野である(図2)。大まかに言えば、対象が何らかの生命現象で手段が情報処理であるような分野である。

 

患者さんは、糞便微生物叢移植の3 回目と4 回目の期間の後にそれぞれ熱と黄疸が無い状態になり、1 年後までその状態が続きました。そう痒は、糞便微生物叢移植後 6週間まで悪化し (最大スコア 8/10)、その後 許容可能レベル (2/10) まで着実に減少しました。ベースラインから見ると特徴的な細菌群集とその機能の変化に関連した、肝機能の顕著な改善 (表1) および循環総胆汁酸と有毒胆汁酸 (表2)の顕著な改善が注目されました。ベースラインでは、プロテオバクテリア門(※注17)の相対量は患者の方が高かったが、バクテロイデスとアクチノバクテリア門(放線菌門)は健康なドナーの方が多かったです。ビフィドバクテリウム属コプロコッカス属、メガモナス属、およびバクテロイデス属はベースラインでドナーがより高かったが、エンテロバクター属、カテニバクテリウム属、およびダイアリスター属はベースラインで患者がより高かったことが注目されました。糞便微生物叢移植の期間中、プロテオバクテリア門の相対量の減少と、それに伴うバクテロイデテス門およびファーミクテス門の増加という顕著な変化が見られました。属レベルでは、ドナーで優勢だった細菌(バクテロイデス、メガモナス、ビフィドバクテリウム)が患者の糞便微生物叢移植中に増加し、ベースラインでは存在しなかった種(クロストリジウム、ベイヨネラ)が出現しました。ベースライン時に患者に存在していたいくつかの種(フェカリバクテリウム、オシロプシラ、ラクノスピラ)は、4週間の糞便微生物叢移植終了時には完全に消失していました。

 

(※注17)門:

生物分類学的階級の一つ。

界・門・綱・目・科・属・種の階級がある。私たちヒト(=Homo sapiens、1758年にリンネ(Linnaeus)が考案)という生物を生物分類の階級にしたがって表現すると、動物[界]脊索動物[門]哺乳[綱]サル[目]ヒト[科]ヒト[属]ヒト(sapiens)[種]となる。以下のサイトが生物分類学的階級について詳しいので、興味がある方は参考になさって下さい。

 

 

また、人の腸内細菌の門は大きく分けて

Firmicutes門、Bacteroidetes門、Proteobacteria門、Actinobacteria門の4つの門に分類されます。

 

表1

原発性硬化性胆管炎および再発性細菌性胆管炎を患う患者における、ベースライン時、糞便微生物叢移植中および移植完了後の肝機能検査値

時間

総ビリルビン (mg/dL)

直接ビリルビン (mg/dL)

アスパラギン酸トランスアミナーゼ AST(IU/L)

アラニントランスアミナーゼ ALT(IU/L)

アルカリホスファターゼ

 ALP(IU/L)

ガンマグルタミルトランスフェラーゼ γ-GTP(IU/L)

血清アルブミン (g/dL)

国際標準化比(注18)

ベースライン

6.8

4.2

88

128

456

332

3.2

1.46

FMT の第 1 週終了

7.2

4.8

92

132

502

288

3.1

1.42

FMT の 2 週の終わり

6.8

3.1

90

112

662

292

3.1

1.51

FMT の 3 週の終わり

4.3

3.2

97

118

886

342

2.9

1.61

FMT の第 4 週終わり

3.6

2.2

94

132

792

316

3.2

1.48

FMT 後 3 か月

2.8

1.6

78

98

344

189

3.4

1.32

FMT 後 6 か月

1.8

0.9

72

68

286

184

3.4

1.34

FMT後9ヶ月

2.0

0.8

66

56

214

164

3.2

1.28

FMT 後 12 か月

9.4

4.9

79

97

352

246

3.1

1.64

(※注18)

肝機能検査項目の1つにプロトロンビン時間(PT)があり、その値から国際標準化比(INR)を算出します。PTとINRは、どちらも血液が凝固するのにかかる時間に基づく指標です(肝臓では、血液凝固因子と呼ばれる血液凝固に必要なタンパク質のいくつかが合成されます)。PTまたはINRの異常値は、急性または慢性肝疾患の存在を示している可能性があります。急性または慢性肝疾患がある人では、PTまたはINRの高値は、一般的には 肝不全への進行を意味します。

表2

原発性硬化性胆管炎および再発性細菌性胆管炎を患う患者における、ベースライン時、糞便微生物叢移植中および移植完了後の総胆汁酸および分画胆汁酸

時間

総胆汁酸 (μmol/L)

コール酸(μmol/L)

デオキシコール酸 (μmol/L)

ケノデオキシコール酸 (μmol/L)

ベースライン

86.4

33.6

<0.5

52.8

FMT の第 1 週終了

73

18.7

2.6

51.7

FMT の 2 週の終わり

55.9

15.5

<0.5

40.4

FMT の 3 週の終わり

64.5

17.9

<0.5

46.6

FMT の第 4 週終わり

52.6

18.4

<0.5

32.8

FMT 後 6 か月

48.7

21.9

1.3

24.4

FMT 後 12 か月

68

18.8

<0.5

48.7

基準範囲

≤6.8

≤1.8

2.4

3.1

 
 

膜輸送に関連する経路、特に ATP 結合カセット輸送体(※注19)と細菌の運動性に関連するタンパク質は、糞便微生物叢移植後に変化しました (図1)。糞便微生物叢移植の1年後、胆管炎が再発しましたが(血液培養陽性が除外された場合は広域抗生物質で治療)、腸内微生物群集における顕著な病原性変化と、ベースラインでは患者にもドナーにも認められなかった病原種の出現が見られました。患者は糞便微生物叢移植の 2 サイクル目を勧められましたが、拒否し、精密検査と肝臓移植待機リストへの再登録のために 肝臓移植センターに照会されました。

 

(※注19)ATP結合カセット輸送体 (ATP-binding cassette transporters):

ATPのエネルギーを用いて物質の輸送を行う膜輸送体の一群である。構造的特徴を共有する非常に大きなタンパク質スーパーファミリーをなし、現生のすべての生物に存在する。ABC輸送体、ABCトランスポーター  、ABC蛋白質とも呼ばれる。

 
 
 

【図1】

 

(A) ベースライン時、健康なドナーからの糞便移植中および移植後 1 年後の患者の糞便サンプルのメタ16s解析(注20)における主要な細菌門の面積図。

(B) ベースライン時、健康なドナーからの糞便移植中および移植後 1 年後の患者の糞便サンプルのメタ16S解析における主要な細菌属の面積図。

 (C) 健康なドナーからの糞便移植中および移植一年後に、ベースラインから上方制御および下方制御された複数の代謝経路のヒストグラム表示。

 

(※注20)メタ16S解析:

次世代シーケンサーを用いた腸内細菌叢の解析は、全ゲノム配列を網羅的に解読するメタゲノム解析と、ゲノム中の16S rRNA 遺伝子配列のみを解読するメタ16S解析に分けられる。メタ16S解析では菌の機能に関する情報は得られないものの、必要とするデータ量が少ないため、安価に大量のサンプルを解析することが可能である。

 

議論

PSC に対する健康なドナーの糞便微生物叢移植は、微生物叢の多様性とPSCにおける肝臓の生化学を改善することが最近示されました。Bajerと共同研究者らは、炎症性腸疾患を併発しているかどうかに関係なく、PSC患者ではRothia、Enterococcus,、Streptococcus(レンサ球菌) およびVeillonellaが著しく多いのに対し、Coprococcus、Adlercreutzia、Prevotellaは減少していることを示しました ; これは、ベースラインでの私達の調査結果と多かれ少なかれ似ていました。

Pereiraらは、PSCの病因は胆汁微生物群集の変化とは関連しておらず、Streptococcus(レンサ球菌)が疾患の進行において潜在的に病因となる役割を果たしていると示唆しました。

 

PSCにおける糞便微生物叢移植による一年間の無移植生存期間(transplant-free survival ;TFS) と再発性急性細菌性胆管炎の改善は実証されていません。 

PSC患者では、血清アルカリホスファターゼの改善(自然に、またはより頻繁にUDCA療法によって)が予後の改善につながることが、複数の研究で示されています。しかし、UDCA治療に関するより大規模なプラセボ対照研究では、症状や移植までの時間に対する影響は実証されませんでした。 15年間の追跡調査を伴うPSCに関する最大規模の多施設共同研究の結果は、臨床事象や無移植生存期間の改善においてUDCAが役割を果たしていないことを裏付けました。最近の分析では、高用量のUDCAを投与されたPSC患者における強力な疎水性胆汁酸であるリトコール酸の血清濃度の上昇が有害転帰と関連していることが判明したため、28mg/kgを超えるUDCA投与量は削減されました。

 

PSCにおける抗生物質療法は、とりわけ PSCの発症に関して腸内微生物叢の役割が認められるという証拠が増えていることから、有望であると思われます。しかし、耐性の進化と病気の進行の予防の問題は依然として臨床医にとって大きな懸念事項です。UDCAと環状抗生物質を併用しても急性細菌性胆管炎の症状や肝臓生化学が改善しなかった患者さんは、糞便微生物叢移植の利用によって肝臓生化学だけではなく、臨床的にも改善しました。

 

私たちの患者では、門レベルでプロテオバクテリア (多数のヒト病原体を含む門) が減少し、ファーミクテス属 (有益な免疫学的特性を持つと推定される多くの分類群を持つ門) が増加しています。この事は明らかに PSCにおける糞便微生物叢移植を支持するでしょう。しかし、属レベルではクレブシエラ菌とエンテロコッカス菌の増加が見られます。これらは炎症促進性の腸内作用を有しており、PSC における細菌性胆管炎の重要な腸内病原菌の供給源を構成していると考えられます。さらに、定評のある有益な免疫調節効果を持つ分類群を産生する酪酸である、フェカリバクテリウム と ローズブリアが時間の経過とともに患者において減少することが報告されています。しかし、これは潰瘍性大腸炎の患者でのみ実証されており、PSC の患者では実証されていません。それにもかかわらず、糞便微生物叢移植後の数カ月の間、病原性の細菌が進化していても 、有益な代謝機能経路は依然とし活性化しています。したがって、単に病原種が存在する事だけでは臨床的な転帰を真に反映していない可能性がありますが、この事は微生物叢の機能に影響を与える可能性があり、それはより重要な事です。

 

私達の患者さんにおける自然発生的な病原性の変化の背後にある理由は、現時点では明確に説明できません。この影響は、疾患の病因である他の活発な「要因」によって長期的に有益な種の共生が失敗したことに起因する二次的なものである可能性があります。このことは明らかにPSC における糞便微生物叢移植の有益な効果に疑問を呈するか、少なくとも糞便微生物叢移植は無移植生存期間を延長するための短期的な手段としては有用かもしれないが、長期的な解決策としては適切ではないと主張するでしょう。;中長期的には不利になる可能性さえあります。 無移植生存期間における改善を裏付ける重要な所見は、循環胆汁酸に見られる顕著で有益な変化とアルカリフォスファターゼの初期の減少であるかも知れません。急性細菌性胆管炎の長期における自然治癒は、あり得ることではあるものの、この疾患の自然史では十分に実証されておらず、PSC患者において、細菌性胆管炎の再発が生命を脅かす転帰をもたらすことはよく知られています。

 

私達の患者さんにおいては、再発性細菌性胆管炎と、糞便微生物叢移植の後の丸一年の間のその改善は、治療後の改善と変化についての臨床的、生化学的、メタゲノム的な証拠を伴うものでしたが、私達の研究結果を確かめるためには、この問題に対するより大規模な研究が必要ではあるものの、この事は、症状の無い期間や無移植生存期間は、単に偶然によって生じたものではない事を示す概念的な証明となっています。糞便微生物叢移植一年後、患者さんに急性細菌性胆管炎が再発した事は微生物叢が疾患の進行と発現の”要因”の一つであるかもしれない事を示唆していると思われます。;しかしながら、他の要因がPSCにおける腸内毒素症の開始と維持に関連している可能性がありますし、あるいは糞便微生物叢移植の効果は短期間では限界があるのかも知れません。

 

これらの問題は、PSCのスペクトラム(連続した広がり)を完全に理解するために、宿主要因と環境要因を考慮して、マルチオミクス(※注21)を統合した研究を用いた更なる調査を必要としています。

 

(※注21)マルチオミクス:

生体内の機能を担うさまざまな物質について、総合的・網羅的に研究する学問分野。具体的にはDNARNAたんぱく質代謝産物などを分析対象とし、それぞれゲノミクストランスクリプトミクスプロテオミクスメタボロミクス分類される。マルチオミックス。統合オミクス。

 

結論

 

私達は、進行した肝硬変や代償不全の無い、再発性急性細菌性胆管炎を伴うPSCの患者さん達が無移植生存期間の延長を通じて糞便微生物叢移植から利益を得られるのではないかと考えています。この事は、移植待機リストの負担を軽減する可能性があり、その結果、より高い肝疾患重症度スコアの人達に対するより適切な臓器の割り当てが実現されるかもしれません。より大規模な研究が未だ満たされていないニーズ(Unmet Need)です。

 

ケモマブ・セラピューティクス社がPSCの新規治療薬CM-101を開発中

イスラエルのバイオ医薬品会社のケモマブ・セラピューティクス社がCCL24を治療標的としたPSCの治療薬を開発中とのことです。
 
まずは、CCL24が何であるか、PSCに対してどのような影響を与えているのかについての論文の概要を紹介します。
 
CCL24は原発性硬化性胆管炎における胆道の炎症と線維症を統制する
 
概要
 
CCL24 は、いくつかの慢性線維性疾患で発現する線維化促進性、炎症促進性のケモカイン(※注1)です。肝臓では、CCL24 が線維化と炎症に関与しており、実験モデルでは CCL24 を遮断すると肝臓損傷が減少しました。われわれは原発性硬化性胆管炎(PSC)におけるCCL24の役割を研究し、この疾患においてCCL24をブロックする事の潜在的な治療効果を評価した。多剤耐性遺伝子 2 ノックアウト(不活性化) マウスは肝臓マクロファージで CCL24 発現を示し、関連する実験用 PSC モデルとして使用されました。CCL24中和モノクローナル抗体(※注2)CM-101は、胆道領域の炎症、線維症、胆汁うっ滞関連マーカーを大幅に改善しました。さらに、空間トランスクリプトミクス(※注3)を使用して、CCL24の中和後の胆管細胞の増殖および老化の減少を観察しました。次に、我々は、線維化促進条件下で初代ヒト胆管細胞およびマクロファージにおけるCCL24発現が上昇し、初代ヒト肝星細胞および胆管細胞の増殖を誘導し、CCL24阻害後にその増殖が減弱されることを実証しました。同様に、CCL24 は PSC 患者の肝生検で高度に発現していることが判明しました。CCL24血清レベルは肝線維症増強スコアと相関しており、アルカリホスファターゼレベルが高い患者で最も顕著です。これらの結果は、CCL24 をブロックすると、肝臓の炎症、線維症、胆汁うっ滞を軽減することにより、PSC 患者に治療効果がある可能性があることを示唆しています。
 
 
(※注1)ケモカイン:サイトカインの一種であり、ケモカイン受容体と結合し、白血球の遊走を誘導するタンパク質。白血球を呼び寄せることで炎症反応に寄与する。
 
(※注2)モノクローナル抗体:抗原にあるたくさんの目印(抗原決定基)の中から1種類(モノ)の目印とだけ結合する抗体を、人工的にクローン(クローナル)増殖させたもの
 
(※注3)空間トランスクリプトミクス
空間的遺伝子発現解析。組織切片をmRNAキャプチャー用プライマーがスポットされたスライドグラス等に貼り付け、スライド上で組織溶解・mRNA補足・cDNA合成を行うことで、組織中における位置情報を保持した網羅的遺伝子発現情報を得ることができる技術。
 

続いては、ケモマブ社によるCM-101の臨床試験についてのページを紹介します
 

 

 

 

 
ケモマブはPSC治療用に開発した新規生物製剤CM-101を試験中:
 
CM-101 は、可溶性タンパク質 CCL24 を標的とします。CCL24 は、受容体 CCR3 を介して肝臓の線維化および炎症活動を促進する上で極めて重要な役割を果たすことが判明しています。
 
ケモマブは、CCL24 が PSC 患者の肝臓サンプル (生検) で強く発現しており、血中の CCL24 レベルが肝線維化の状態と相関していることを実証しました。
 
ケモマブは、複数の PSC 動物モデルで CM-101 の前臨床試験を実施し、CM-101 が有効であり、疾患の重症度を大幅に軽減することを発見しました。
 
ケモマブはまた、健康なボランティアと非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)患者でCM-101をテストし、CM-101はテストされたすべての用量で安全で忍容性が高いことを確認しました。今回の研究で初めて、ケモマブは PSC 患者の治療における CM-101 を評価します。SPRING研究では、成人 PSC 患者を対象に CM-101の安全性と忍容性をテストします。
 
これは第 2a 相試験であり、試験薬 (CM-101) またはプラセボ(偽薬)のいずれかを 12 週間にわたって 3 週間に 1 回、5 回の静脈内注入を投与します。オプションで、すべての患者が CM-101 の投与を受ける 33 週間のオープンラベル(非盲検試験)延長期間もあります。
 

 
続いては、CM-101についての投資家向けの広報資料を紹介します。
ここではCM-101の治療標的であるCCL24とPSCとの関連性を示す裏付けが更に強化されたこと、CCL24によって誘導されたPSC重症化因子の増加をCM-101がブロックした事などが発表されています。
 

 

 

 

 
ケモマブ・セラピューティクス、EASL(欧州肝臓学会) 2023で原発性硬化性胆管炎の新規治療法としてCM-101の臨床的可能性を補強するデータを発表
 
— 新しいプロテオミクス(※注4)データにより、CM-101 の 標的であるCCL24 と原発性硬化性胆管炎 (PSC) 疾患経路との関係がさらに確認されました —
 
–CM-101がCCL24レベルの上昇によって引き起こされる線維性疾患および炎症性疾患のプロセスを中断するというさらなる証拠を提供–
 
(※注4)プロテオミクス(proteomics)とは、生物の細胞や組織、生体液中に含まれるすべてのタンパク質(プロテイン)の種類や量、構造、相互作用、機能などを総合的に解析する技術や学問分野の総称。生物の細胞や組織などに存在するすべてのタンパク質を「プロテオーム」と呼ぶ。
 
イスラエルのテルアビブおよびウィーン、 2023年6月26日/ PRNewswire / — ケモマブ・セラピューティクス Ltd. (ナスダックにおけるティッカーシンボル: CMMB)、(Chemomab)は、高い必要性が有りながら満たされていない、希少な線維性―炎症性疾患を治療するための革新的な治療法を開発する臨床段階のバイオテクノロジー企業ですが、本日、 2023年6月21~24日にオーストラリアのウィーンにおいて開催された欧州肝臓学会年次総会であるEASL 2023において、同社の原発性硬化性胆管炎(PSC)プログラムの臨床的根拠を裏付ける2枚の科学ポスターを発表したと報告しました。
 
「EASLで発表された前臨床データは、CCL24がPSCにおける疾患症状の操縦者であることを示唆する包括的かつ一貫した一連の証拠をさらに補強するものである。このデータはまた、当社のファーストインクラス(※注5)のCCL24中和抗体であるCM-101のPSCやその他の線維性疾患の根底にある線維性―炎症性の悪循環を断つ能力を強調している。 」とケモマブの共同創設者兼最高経営責任者兼最高科学責任者であるAdi Mor博士は述べました。「これらのデータは、先週最新のEASLポスターで報告した第2a相(←臨床試験の段階。第2相はフェーズaとbに分けられる事が多い)肝線維症バイオマーカーの肯定的なデータと合わせて、CM-101を効果的な治療法のないこの深刻な疾患の将来性のある治療法として評価するための私達の全世界的な第2相PSC試験への熱意をさらに高めます。」
 
 
(※注5)ファースト・イン・クラス(First In Class:FIC)とは、画期的医薬品のこと。そのカテゴリーの医薬品の中で、最初に認可された新薬を指す。
 
ポスターの 1 つは、炎症促進性、線維化促進性シグナル伝達タンパク質 CCL24 と PSC 疾患関連経路との直接的な関係を実証する新しいプロテオミクス研究について報告しています。CCL24 は PSC 患者の肝臓、特に胆道損傷領域で過剰発現します。この研究では、PSC患者と健康な対照からのプロテオミクスデータを分析することにより、CCL24がPSCとその関連経路において重要な役割を果たしていることが確認されました。CCL24レベルが高い患者では、PSCおよび疾患の重症度に関連する経路が上方制御されていることが判明しました。CCL24 レベルは、炎症、線維症、血管新生に関連する血清タンパク質とも有意に相関していました。さらに、新しい in vitro(試験管内の) 研究では、CCL24の刺激を受けた肝線維芽細胞は、重度の PSC 患者に見られるものと同様のタンパク質の増加を示しました。これらのタンパク質は、PSC 患者を健康な対照と区別し、また、症状の重症度によって彼らを区別するためのサインとして機能します。
注目すべきことに、この研究では、CM-101による治療がこれらのCCL24によって誘発された、(PSCと重症度の)サインとなるタンパク質の発現の変化をブロックしました。
 
 
EASLカンファレンスで発表された別のポスターでは、ケモマブが現在進行中のPSC患者を対象とした二重盲検、プラセボ対照、複数回投与のCM-101第2a相試験の臨床設計とエンドポイント(評価項目)について説明しました。この試験のトップライン結果(※注6)は 2024 年後半に発表される予定です。
 
(※注6)トップライン結果とは、通常、臨床試験の結果が事前に設定された主要評価項目に達成したか否かを評価するための、ハイレベルな結果のことを言います。
 
「これらのポスターは、PSCの効果的な治療法としてのCM-101の可能性を裏付ける前臨床的証拠を補強するものであり、このProof of Concept(※注7)臨床試験の結果を楽しみにしている私たちにとって心強いものです」と医学博士であり、2枚のポスターの共著者であり、PSC第2a相臨床試験の共同研究者であり、臨床肝臓専門医、医学部教授であり、UCL肝臓・消化器健康研究所所長であり、ロンドン大学のシェイラ・シャーロック肝臓学教授でもあるマッシモ・ピンザーニ氏は述べました。「この試験の結果は、炎症性および線維性疾患におけるCCL24の役割をさらに解明し、この治療が不十分な状態におけるCM-101の治療可能性を早期に実証し、将来の臨床研究への情報提供に役立てることを目的としています。予想通り、最近予定されていたデータ監視委員会の中間会議では安全性の懸念は見つからず、臨床チームは来年後半のトップラインデータの読み出しに向けて突き進んでいる。」
 
ポスターは今週から Chemomab の Web サイト ( www.chemomab.com/rd/)で公開されます。
 
(※注7)研究段階で構想した薬効がヒトでも有効性を 持つことの確認をProof of Conceptと呼ぶ。

 
また、次の記事によると、ケモマブ社は、CM-101のデータが非アルコール性脂肪性肝炎に関しても肯定的であるにも関わらず、非アルコール性脂肪性肝炎に対するCM-101を用いた治療の開発を一旦保留し、同社のリソースと CM-101 の開発をPSCに集中させることを決定した、とあるので、CM-101のPSC治療薬としての成功に高い自信を持っていることが窺えます。

 

 

 
ケモマブ、NASH ではなく PSC で CM-101 を前進させる
 
ケモマブは、NASH のデータが肯定的であるにもかかわらず、リソースと CM-101 の開発を希少肝疾患に集中させることを決定しました。
 
ウルテ・フルティナビチュテ著
 
Chemomab Therapeutics は、非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) の治療を保留し、原発性硬化性胆管炎 (PSC) における CM-101 の開発に焦点を当てていると CEO の Adi Mor 博士が Clinical Trials Arena に語った。
 
CM-101 は、線維化炎症プロセスにおける重要な調節因子である CCL24 活性に結合してブロックするように設計されたファーストインクラスのヒト化モノクローナル抗体です。
 
Mor氏は、NASH第IIa相臨床試験では有望な結果が得られたものの、同社はリソースとPSCにおける膨大な前臨床データに基づいてギアを切り替えていると説明した。
 
彼女は、「この第 IIa 相 NASH 試験のデータは、PSC で期待されるものに大いに応用可能であることがわかりました。」と述べました。
 
ケモマブは現時点では NASH の追跡を中止しているが、同社は将来、パートナーシップやその他の機会を通じて、この適応症に戻ることを検討する可能性があります。
 
CM-101の次のステップ
 
CM-101は現在第IIa相PSC試験で研究中であるが、ケモマブは2025年に開始予定日を予定し、重要となる可能性のある第III相試験の計画を立て始めている。
 
治験の正確な投与計画と期間は、第 IIa 相治験のデータのみに依存するとMor氏は宣言した。同社は、2024 年下半期にトップライン データを発表する予定です。
 
Mor氏は、評価項目に関して、いくつかの後期段階の試験では、フォーク博士が実施中のノルウルソデオキシコール酸研究(NCT03872921)や中止されたギリアド社のシロフェクソール(NCT03890120)などのように、肝生検を含むエンドポイント(評価項目)が使用されたと説明しました。
 
しかし、とりわけPSCのような斑状疾患において危険が生じる可能性のある肝生検に必ずしも由来する必要のない潜在的なエンドポイント(評価項目)について規制当局と議論が進行中です。Mor氏は、新しいエンドポイントは画像とバイオマーカーの組み合わせであるか、単に色々なバイオマーカーのみである可能性があると述べました。
 
Mor氏は、「第 IIa 相試験のデータが確認できたら、FDA と協議し、私達の第 III 相試験の適切なエンドポイントが何であるかを彼らと共に決定します。」と述べました。
 
PSCで進行中の第IIa相試験
 
最近、ケモマブは、2023年の欧州肝臓研究学会(EASL)年次総会で、PSCプログラムの臨床的根拠を裏付ける2枚の科学ポスターを発表しました。ポスターのうちの1枚は、2部構成の第IIa相試験のデザインについて考察したものでした。 (NCT04595825)。
 
試験の最初の部分は、15週間の治療を行う二重盲検期間であり、その後に非盲検部分が続きます。ケモマブは、線維形成と炎症を測定するさまざまなバイオマーカーに注目しています。同社は2021年に最初の患者を治験に登録しました。
 
ケモマブは、ヨーロッパ、イスラエル、米国の約50施設で68人の患者を募集する予定です。
 
Mor氏は、「これは稀な病気なので、効率的に患者を募集できるようにするために、複数の地域で複数のサイトを開設しました。」と説明しました。
 
 


現在はまだ効果的な治療法のないPSCですが、近年、上記のようにLLC24を標的としたケモマブ社のCM-101やクレブシエラ・ニューモニエ菌を標的とした慶應義塾大学のバクテリオファージ療法など、PSCやその症状の原因となる物質に直接アプローチする治療薬の開発が進んでおり、有効なPSC治療確立への道がゆっくりとではありますが、拓けつつあるように感じます。
 

慶応義塾大学が開発中の原発性硬化性胆管炎(PSC)の新薬についての続報

慶応義塾大学が開発中のPSCの新薬について続報が発表されました。

〔報道発表資料〕

https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2023/6/27/230627-2.pdf

 

(前略)

慶應義塾大学医学部内科学教室(消化器)の中本伸宏准教授、金井隆典教授らの研究グループは、肝移植以外に有効な治療法が少ない難治性自己免疫性疾患である原発性硬化性胆管炎(PSC)患者の腸内細菌を解析し、クレブシエラ菌とエンテロコッカス菌が高率に検出されることを確認しました。さらに、イスラエルの BiomX 社との共同研究のもと、患者から分離したクレブシエラ菌を特異的に排除するバクテリオファージ(細菌に感染するウィルスの総称)カクテルの作製に成功し、マウスにこのバクテリオファージを投与するとクレブシエラ菌の腸内への定着が抑制され、クレブシエラ菌により誘導された胆管障害が減弱することが示されました。

(中略)

本研究成果は、2023 年 6 月 5 日(英国時間)に国際学術雑誌 Nature Communications のオンライン版に掲載されました。

https://www.nature.com/articles/s41467-023-39029-9 

(中略)

細菌の増殖を抑制し殺菌する手段として抗菌薬が日常診療で広く用いられていますが、長期間の使用による多剤耐性菌の出現や院内感染が大きな問題となっています。本研究グループはこの問題を打破するために、特定の病原細菌のみを選択的に殺菌可能であり、耐性菌の出現頻度が低いバクテリオファージの作製に着手しました。イスラエルの BiomX 社との共同研究のもと、自然環境に存在するクレブシエラ菌を標的とするファージを複数組み合わせることにより、培養液中のクレブシエラ菌の増殖を長期間抑制し続けるファージカクテルの作製に成功しました。次にクレブシエラ菌を腸内に定着させたマウスにこのファージカクテルを週 2 回合計 4 回投与し、その体内での菌の増植の抑制効果の有無を 14 日目に検討しました。その結果、便中のクレブシエラ菌はファージの投与後その数が劇的に減少することが示され、この効果が 28 日目まで持続することを確認しました(図 3)。

最後に今後の臨床応用を考え、クレブシエラ菌を投与した肝線維化モデルマウスにファージカクテルを投与し、肝硬変の改善効果の有無を検討しました。同様に週 2 回の投与により、クレブシエラ菌によって誘導された肝臓内 TH17 細胞の数は減少し、その結果胆管の炎症マーカーである血清 ALP 値が低下し、肝硬変(線維化)の程度も 50%程度に改善しました(図4)。以上の結果から、クレブシエラ菌を選択的に排除するファージ療法が、PSC に対して有効である可能性が示されました。
(後略)
 
参考
クレブシエラ菌を標的としたバクテリオファージによるPSC治療についての前回の記事

https://www.asahi.com/articles/ASQ314QKKQ2XULBJ00L.html 



動物実験ではありますが、2週間(2回投与/週)(追記:後で論文を確認したところ、肝硬変と線維化の改善を調べる実験の期間は3週間でしたので訂正いたします)という短期間で肝硬変(線維化)が50%も改善したのは既存の治療では不可能な劇的な改善効果だと思います。今後、国内外の患者さんの解析を行うと共に、複数のクレブシエラ菌を網羅的に排除する新たなファージカクテルを用いた治療の研究も進められて行くようです。この非常に高い有効性を持つ新たな治療法が、標準治療としてPSCの患者さんが当たり前の様に利用出来るようになる日が1日も早くやって来る事を願います。

抗生物質バンコマイシンによるPSC治療の効果は薬のメーカーと投与量に左右される!?

以前『抗生物質バンコマイシンによるPSCの治療』
というブログ記事の中で紹介した、
 
『Successful response of primary sclerosing cholangitis and associated ulcerative colitis to oral vancomycin may depend on brand and personalized dose: report in an adolescent : 経口バンコマイシンに対する原発性硬化性胆管炎および関連する潰瘍性大腸炎の反応の成功は、ブランドと個別に調整された用量に依存する可能性がある(2020年11/24公開)』

という論文について詳しく見ていきたいと思います。
この論文は有料論文なので著作権の関係上、全文を掲載することは出来ないので、一部抜粋と概要を紹介しようと思います。
 
 
先ず、この論文の概要
 
14歳で潰瘍性大腸炎と診断され、15歳でsmall duct PSC(※1)と診断された患者さんが1日2回の経口バンコマイシン1000mgの投与によって、下痢、体重減少、疲労が回復し、肝酵素の正常化、および結腸内視鏡所見の正常化が見られ、MRCPでは正常な胆管を示し、磁気共鳴エラストグラフィー(非侵襲的に組織の硬さを画像化する機能)の値は正常範囲内を示すようになり、その効果は論文が公開された2020年まで8年間続いている。
 
(※1)small duct PSC (小管PSC) : 胆管造影で異常を認められず,肝生検でのみ診断されるPSCとして欧米で知られている。一般に、large duct PSCより穏やかな経過を辿る。
 

【図1】

磁気共鳴エラストグラフィーの経時変化。赤い丸は測定された肝臓の硬さをキロ パスカル(kPa)で表しています。エラーバー(工の形の縦棒)は95%信頼区間(※)を表します。点線は通常の硬さの上限を表します。
 
信頼区間とは:
データの平均(標本平均)から母集団の平均(母平均)がどれくらいか,といった範囲を推定する指標が信頼区間です.95%信頼区間とは,95%の確率で母平均がその範囲に含まれることを表しています.たとえば,脳卒中片麻痺患者10名の健側握力を測定して,95%信頼区間が14.7kg~23.2kgであったとき,n=∞のときの脳卒中片麻痺患者の健側握力は95%の可能性で14.7kg~23.2kgの間に存在すると推定できます(以下のサイトより引用 https://onl.bz/y191jjT).
 
(図2左)15歳の時のMRCPではグラディエントエコースキャンで総胆管に7mmまでの拡張が見られるが、22歳時のEovist(MRI造影剤)後のスキャン(図2右)では総胆管の拡張が解消され、4.7mmになっている。
但し、7mmの拡張はオッディ括約筋の痙攣のような生理学的なものなのか、真に解剖学的なものだったのかは不明と言う事です。
【図2】
 
・ジェネリックのバンコマイシンの投与は一定程度の効果はあるが、患者さんの肝機能検査値を完全に正常化することに成功した先発薬のバンコマイシン程の効果はない。
 
・先発薬のバンコマイシンも製造施設が変わってからは、以前程の効果が無くなってしまったが、患者さんが薬を飲む前に自分でカプセルを開いてから服用すると以前と同様に高い効果を発揮した。バンコマイシンは、放線菌の分泌物からの薬物の製造という複雑で繊細なプロセスを伴って作られる医薬品なので、その有効性が製剤方法や製造技術によって大きく影響を受ける薬だと思われる。ジェネリック医薬品において、先発薬程の効果を得られない理由として、そのようなプロセスをコントロールするために先発薬企業が実践している独自のニュアンスを、ジェネリックメーカーは知ることができないためと考えられる。カプセル剤では無く、液剤という剤形であれば、カプセルの溶解特性の問題を回避出来るのでは、と著者は述べている。
 
・バンコマイシンのPSC治療に対する有効性を調査した研究で結果が様々に異なる原因は、バンコマイシンの製造メーカーによって薬の効き目が異なること、バンコマイシンの最適な服用量が個人によって異なること、MRCPやエラストグラフィーでの改善を考慮していない研究も含まれること、調査期間が十分でない事などが考えられる。
 
《ブログ主の見解》
ジェネリック医薬品と先発薬では効き目が異なるというのはバンコマイシンに限らず、他の医薬品でも大いに可能性がある事だと思います。
 
ジェネリック医薬品は先発医薬品(新薬)の特許が切れた後に製造・販売される、「先発医薬品と同じ有効成分を同量含んでおり、先発医薬品と同等の効き目がある」と認められた医薬品とされていますが、特許期間が切れているのは多くの場合、医薬品の有効成分に関わる物質特許のみで、製造方法に関わる製法特許、製剤特許はまだ特許期間が満了してないケースが多いです。その場合、薬をコーティングする技術、またコーティングに使用される添加物、有効成分を安定化する添加物、有効成分の吸収を助ける添加物などを先発薬と同じにすることは出来ません。そうなると有効成分が何処で溶け出し、患部にどれだけ留まるかという医薬品の効果を左右する性質を先発薬と全く同じにすることは出来ません。
 薬が何処でどんなスピードで溶け出し、吸収されるかはその薬の使用目的すら変えてしまう非常に重要な要素で、これは極端な例ではありますが、同じ酸化マグネシウムでも、それが胃で溶け出せば、制酸剤(胃薬の一種)として胃粘膜の保護に働き、大腸で溶け出せば、瀉下薬(便秘薬)として糞便の排出を助けるという風に、溶出する組織によって全く異なる働きをします。
 
一応、ジェネリック医薬品は、有効成分の純度や量を確認する品質試験、医薬品から溶け出した有効成分の量を確認する溶出試験、血液中の有効成分の濃度を比較する生物学的同等性試験、温度や湿度などによる状態変化が基準内であるかを確認する安定性試験という4つの試験によって先発薬と同等な効果があると国から認定されているのですが、生物学的同等試験は、先発薬とジェネリックを投与された被験者における医薬品有効成分の血中濃度を比べて、それが同じならば、治療効果も同じだろうという解釈に基づいて定められている試験なので、あくまで血中濃度の同等性を調べる試験であり、治療効果そのものの同等性を調べる試験ではありませんまた、被験者の体質、体調によって結果にばらつきが出ることを考慮して血中濃度の80%~125%までの差異は許容域として「統計学的には差がない」と容認された上での「同等」なので、厳密な意味での「同等」ではありません。
 
正確な血中濃度のコントロールが必要とされる、免疫抑制剤、抗悪性腫瘍剤、催眠剤、向精神薬、血圧降下剤、糖尿病剤などではジェネリック医薬品の使用は避けたほうが良いようです。
 
飲まない方がよいジェネリック医薬品を調べるにあたって、大木皮膚科さんのブログを参考にさせて頂いたのですが、
 
大木皮膚科さんのブログは公的機関ではなく一般の医療機関のブログなので、直リンクする事は出来ませんが、ジェネリック医薬品の問題点や、良い点の両方についてとても詳しく説明されているので、興味がある方は、「大木皮膚科 ジェネリック」のキーワードで検索してみて下さい。患者さんの安全を第一に考えたとても信頼のおけるお医者さんだと思われます。
 
 
また、日本小児神経学会では、2008年に
1. 先発医薬品と後発医薬品の治療的同等性を検証した質の高いエビデンスはない。
2. 一部の患者で、先発医薬品と後発医薬品の切り替えに際し、発作の悪化、副作用の出現が報告されている。
などの理由から、
「てんかん患者の抗てんかん薬治療においては、先発医薬品と後発医薬品、あるいは後発医薬品同士の切り替えに際して、医師および患者の同意が不可欠であるとともに、充分な情報提供が求められる。」という提言を行っているようです。
 
更に、ジェネリック医薬品は製造コストを下げて安価な商品を提供するために、原薬を中国、韓国、インドなどの海外で製造している事が多く(先発薬でも海外製の原薬を使用しているものも一部有り)、適正製造基準の検査は実地ではなく、書面だけで通ってしまう事もあると言うことなので品質面や安全面に懸念が残ります。
ジェネリック医薬品の製造メーカーの中でも大手に関しては、品質管理や安全管理にコストをかける資金力があり、信頼できる企業もあるようですが、それらの企業であっても原薬の製造拠点は海外なので、相手国の状況によって供給がストップしてしまい必要な時に手に入らないという事態も考えられますので、安定供給の面では不安が残ります。
 
国が医療費の削減のために、ジェネリック医薬品の普及を推し進めていて、定められた割合以上のジェネリック医薬品の処方箋枚数を達成出来なかった薬局には「調剤報酬の減額」というペナルティーが課されるので、薬局からはジェネリック医薬品の使用を勧められる事が多いと思いますが、
命に関わる重篤な疾患である場合、極力、先発薬を選んだ方が安全だと思われます。
 
 
続いては、経口バンコマイシンによるPSC治療を受けた患者さんの、治療開始までの経緯と開始後の経過を記していきます。
 
・この患者さんは全てカプセル剤による経口バンコマイシンの投与を受けました。液剤での投与はありませんでした。
 
・全体を通して「バンコシン」という名称はもともとはイーライリリー社によって開発され、ViroPharma社にライセンス供与され、後にはANI Pharmaceuticals社にライセンス供与された先発医薬品のバンコマイシンに言及する時に使います。
 
・また、ViroPharma社とANI Pharmaceuticals社のジェネリックブランドも先発医薬品と同一のもの(※)なので他のジェネリック医薬品と差別化する為に、「バンコシン」と呼びます。
 
ブログ主注釈: ジェネリック医薬品の中でもオーソライズド ジェネリック (AG)と呼ばれるものだと思います。先発薬メーカーから許諾を得て、有効成分、製造方法、製造技術、添加物、製造ラインなどが全て先発医薬品と同一の条件で作られたジェネリック医薬品です。
 
・その他のジェネリックブランドはシンプルに「ジェネリック バンコマイシン」と呼びます。
 
 
 2010年4月、患者さんが13歳の時に、ニキビ治療のために、毎日、ドキシサイクリンの投与を開始しました。その4ヶ月後に彼女は血の混じった下痢の症状を呈しました。
ドキシサイクリンとPSCの関連性については以前からその可能性を提起されています。
 シプロフロキサシン、メトロニダゾールで10日間、ニタゾキサニドで4日間治療すると症状は改善したが、これらの薬の投与をやめてしまうとまた症状が再発しました。
 それからも彼女はドキシサイクリンを服用し続け、5ヶ月後に結節性紅斑の初期症状で入院しました。
 この時、彼女のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)は56〔正常の上限は35 IU/L〕、アルカリフォスファターゼ(ALP)は190〔正常の上限は119IU/L〕、核周囲の抗好中球細胞質抗体(p-ANCA)陽性、総ビリルビン、直接ビリルビンは正常で結腸内視鏡生検で結腸全体に中程度の慢性活動性大腸炎と回腸末端と盲腸における急性及び慢性炎症が示されました。
 ドキシサイクリンの服用をやめると結節性紅斑は解消しました。
 彼女はメサラミンの投与を開始しましたが、それにより血の混じった下痢と腹痛が悪化し、その後のブデソニド、それに次ぐバルサラジドによる治療も下痢の悪化を引き起こしたので、全ての投薬治療を中止する事を選択し、VSL#3プロバイオティクス、クルクミン、サボテンジュースによる6ヶ月間の非処方薬治療を始めました。しかし、彼女は1日に最大4~5回の下痢を経験し続けブリストルスケールはタイプ7でした。
【図3 ブリストルスケール】
 
 2012年7月、15歳の時、彼女は潰瘍性大腸炎に対するアザチオプリン療法の開始のためにスクリーニング血液検査を受け、肝機能検査の値がALT221 IU/L(基準値7-35)、ALP221 IU/L(基準値45-119)、AST88 IU/L(基準値8-41)、GGT397 IU/L(基準値9-29)まで上昇している事が明らかになりました。MRCPでは肝門部近くに総胆管の7mmの拡張が見られましたが、他にPSCを示唆する変化は無く、肝内の大きな管の関与も見られませんでした。肝生検を行ったところ、同心性線維症と胆管増殖を伴う門脈へのリンパ球の浸潤が認められたので、small  duct PSCと診断されました。
 患者さんは潰瘍性大腸炎に対するアザチオプリンに加えて、ウルソデオキシコール酸(UDCA)300mg1日2回の投与を開始して、肝臓の検査値は改善したが、正常化はしませんでした。アザチオプリンの投与開始から10日以内に吐き気、嘔吐、心窩部痛の症状を呈したため、アザチオプリンを中止する事でこれらの症状は解消しましたが、下痢は続きました。
 
 
 2012年、10月、以下の論文に基づいてカプセル剤の形で経口バンコマイシン500mgを1日3回(35mg/kg/日)投与するテストを開始しました。
『経口バンコマイシン:免疫調節抗生物質による小児原発性硬化性胆管炎の長期治療』

 

 
UDCAに対する生化学的反応が部分的にしかなかったのでUCDAは中止されました。
 
以降、経口バンコマイシンのみによる治療が続きます。
下のグラフのポイントA~Iの時点での出来事を解説していきます。
【図4】
 
〘ポイントA〙
 上記の経口バイコマイシン投与の開始はの図4のポイントAにあたります。この時服用した薬はジェネリック医薬品の経口バンコマイシンでAkron Pharmaceuticalsのものになります。これにより2週間以内に下痢は治まり、便は硬くなり(ブリストルスケールタイプ4)、患者さんの体重は増加しました。
 
そして、バンコマイシン経口投与5ヶ月後の肝機能検査値は大きく改善し、
 ALT 9 IU/L (基準値 7–35), ALP 180 IU/L (基準値 45–119), AST 27 IU/L (基準値 8–41),  GGT 46 IU/L (基準値 9–29)でした。
 
〘ポイントB〙
2013年、8月。トランスアミナーゼ(※)が完全に正常化していなかったので、用量を750mg1日3回(40mg/kg/日)に増量しました。いくつかのジェネリックブランドで、一部の患者さんの腸内での濃度が異なるという事があったので、ジェネリックバイコマイシンをViroPharma, Inc.の経口バンコシン(先発薬、若しくは先発薬と同等のもの)に変更しました。
 患者さんの肝機能は、ガンマ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)が55 IU/L (通常の上限値は 29 IU/L)と軽度に上昇した事を除いて正常化しました。
 
 
トランスアミナーゼ: アミノ酸からアミノ基を取ってケト酸(2-オキソ酸)にし、アミノ基を他のケト酸に与えてアミノ酸にする酵素の総称。ALP、ALT、GGTなど。
 
〘ポイントC〙
2014年10月。用量を朝1000mg夜750mgに減らしたところ、肝機能検査値が急上昇しました。
 
〘ポイントD〙
2014年、11月。1000mgを一日2回(35mg/kg/日)に増量しました。肝機能検査値は完全に正常化しました。
 
〘ポイントE〙
 数ヶ月後、急性伝染性単核症により偶発的に一時的な肝機能検査値の上昇が起こりました。
 
〘ポイントF〙
 2016年、1月。バンコシンの保険適用が継続されなかったため、Alvogenブランドのジェネリックバイコマイシンカプセルに切り替えました。患者さんは2週間以内に軟便と肝機能検査値の上昇を経験しました。
 
〘ポイントG〙
 翌月、薬をバンコシンに戻しましたが、その時、ライセンスはANI Pharmaceuticalsによって取得されていました。彼女の便と肝機能検査値は再び正常になりました。
 
〘ポイントI〙
 2019年7月。彼女はバンコシンの投与を続けていたのに軟便を経験し、肝機能検査値が上昇しました。
GGT 46–83 U/L (正常値の上限は60 U/L未満)で、 カルプロテククチンは38.2–423.8 μg(正常値の上限は50 ʯg未満)でした。
 彼女は、最初、用量を750mg1日3回に増やし、それから、1000mg1日3回に増やしましたが、彼女の腸の症状も肝機能検査値も改善しませんでした。
 ANI Pharmaceuticalsがその年の第2四半期に製造施設の場所を変更していた(ポイントH)のを知ったあと、おそらくはカプセル化の方法の変化に関与していると思われる製造施設の変更が腸におけるバイオアベイラビリティの(※)問題の原因になっている事を疑って、患者さんはカプセルを開けてから薬を摂取し始めました。
 
バイオアベイラビリティ: 人体に投与された薬物のうち、どれだけの量が全身に循環するのかを示す指標。生物学的利用能ともいわれる。
 
 2週間以内に彼女の肝機能検査値は正常化し、胃腸の症状は完全に解消し、カルプロテククチンは73.4μg(正常値の上限は50 ʯg未満)まで減少し、次の2週間で正常化しました。
 
彼女は薬の投与量を通常通りの1000mg1日2回に戻し、バンコシンのカプセルを開けて、服用し続けました。
 
PSCの診断から8年後のサーベイランスMRCPスキャンでは、正常な肝内胆管を持つ正常な肝臓が示されました。総胆管の拡張も解消されていました。磁気共鳴エラストグラフィーの結果は正常の範囲内でした。その後の毎年のサーベイランス結腸内視鏡検査では、生検で休止状態~軽度の慢性大腸炎しか示されませんでした。2020年9月の時点で彼女の結腸内視鏡検査と生検は肝機能検査値と同じく正常でした。
 
ALT 20 IU/L (基準値 10–35), ALP 51 IU/L (基準値 35–105), AST 
26 IU/L (基準値 10–35), and GGT 22 IU/L (基準値<40)

新型コロナワクチンについて大阪府泉大津市市長の勇気ある発信

大阪府泉大津市市長の南出氏が市民に向け、新型コロナワクチンについて忖度のない情報を発信されています。

https://youtu.be/jWzt5dB8FFk 

厚生科学審議会での新型コロナワクチンによる副反応疑い報告数

・死亡数 2058人

・重篤副反応数 26363人

小さなお子さんにも亡くなられた方がいます。

各国の追加接種の状況を示したグラフです。

2022年の8月頃から積極的に追加接種を続けているのは日本だけという状況が分かります。

泉大津市の職員さんが頻回接種・繰り返し接種にあたる6回目の接種の安全性について厚生労働省に問い合わせたところ、「(安全性については)分かりませんと回答が返ってきたそうです。

当初、厚生労働省ではワクチン接種歴別のコロナの感染状況を公表していて、ワクチン未接種者の方が感染しやすい事を示すための資料だったが、「接種歴不明の人(ワクチン接種歴の項目が未記入の人)」を「未接種」に入れてカウントしている事を、名古屋大学名誉教授の小島勢二氏や柳ケ瀬参議院議員に国会で追求され、正しい分類の仕方で集計し直したところ、ワクチンを接種した人のほうがかかりやすくなっていると言うことが各年代毎に明らかになってきました。

上の図は2022/8/22~28の年齢別と接種歴別の感染状況(10万人あたり)を示す表ですが、殆どの年代で接種者の方が感染者数が多くなっています。

この後、厚生労働省は接種歴別の感染状況を示す資料を一切公開しなくなりました。厚生労働省と政府はワクチン接種に肯定的な情報以外は国民に開示するつもりがないのでしょう。

インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの接種回数をほぼ同じに揃えて比較すると、新型コロナワクチンの異常なまでの副反応の多さ、安全性の低さが明瞭になります。

新型コロナワクチンはインフルエンザワクチンと比べて、死亡報告数が50倍以上である事が分かります。

mRNAワクチンが人類にとって未知の医薬品である事を踏まえ、副反応の危険性を注視してほしいと南出市長は仰っています。

過去44年間の全ワクチンにおける被害が

・認定累計3522件 ・死亡認定累計151件

であるのに対して、

接種が始まってまだ2年しか経っていない新型コロナワクチンはすでに

・認定累計1829件(審査中4671件) ・死亡認定累計41件

に達しています。

そして被害を申請してもまだ審査にすら至らず未着手の被害報告が4000件以上あり、時間とともに更に増加してきている事がグラフから読み取れます。

最初、厚生労働省は新型コロナ感染症にかかって心筋炎・心膜炎になる頻度の方がワクチンを打って心筋炎・心膜炎になる頻度よりも高いとする資料を公開し、その根拠となるデータとして新型コロナ感染症にかかった人100万人あたりの心筋炎・心膜炎の発生件数が834件であるというグラフを提示していたが、実はそのグラフの母数が「新型コロナ感染症にかかった人」では無く、「新型コロナ感染症にかかって入院した人」であったことが判明し、それを国会で追求されると、国民になんの説明もないまま、そのグラフをしれっと別のものに差し替えました。

・ワクチンの頻回接種によって、病原体を排除する能力の低いigG4抗体が増加し、他の抗体が十分に応答出来なくなる。そのために他の病気まで悪化する危険性。

体内に入ったワクチンの成分は直ぐには分解されず、体中を駆け巡ります。ワクチンによってスパイクタンパクを発現した細胞は自己免疫の攻撃対象になる危険性。

・スパイクタンパク自体が毒性を持ち、血管障害を起こすという報告。

・米国では今回のワクチンに関する副反応の種類が報告されているものだけでも1200種類以上。

・その他にも、心筋炎、心膜炎、月経異常、超過死亡の激増など、ワクチンとの因果関係はまだ明確には立証されていないものの、接種に伴って生じてきている現象に対して警鐘を鳴らす人々が国内外におられ、世界的な議論になっているが、日本ではなかなか話題にならない。

・オミクロン型対応ワクチンや頻回接種にはわからない事ばかり。

「6回目はどこの国も打ってませんが大丈夫なんですか?」と厚生労働省に問い合わせたところ、「わかりません」との返答。

・ワクチン接種を実施されるクリニックの先生方はインフォームドコンセントでワクチン接種の危険性について患者さんにしっかりと伝えてほしいと南出市長は仰っています。

泉大津市では新型コロナワクチン健康被害支援金制度を作り、泉大津市の医師会の先生方とお話し、相談窓口を設け、万が一ワクチン接種によって体調が悪くなった場合には健康被害申請の手続きをサポートし、国に申請が受理されるまでにかかった治療費の3/4を市が補助してくれるそうです。

厚生労働省に予防接種と因果関係があると認定された疾病・障害の中には失明、難聴、麻痺、腹痛、発熱、嘔吐、下痢、帯状疱疹、パーキンソン病、歩行障害、肝機能障害、喘息、アナフィラキシー、顔面神経痛、痺れ、脱力、胃腸炎、めまい、疼痛、皮膚炎、頭痛、関節痛など非常に広範な症例が含まれる。ありとあらゆる症状があり過ぎて、それがコロナワクチンによる副反応だと、気がついていない人もいるのではないか?もしワクチンを接種してから、調子が悪いという人がいたら、スライドに示したような多種多様な症例が既にワクチンによる健康被害として認定されているので、市民の方は市に相談してほしいとの事。また、泉大津市ではワクチン接種後の副反応についてアンケートも行っていて、そこから明らかになった情報については、市民の皆さんと共有しながら、医師会の先生方、医療従事者の方にもお伝えし、体調の悪い方には出来る限りのサポートをしていきたいとの事でした。


 
以下ブログ主の意見
 
新型コロナワクチンを打つか打たないかの選択権が国民ひとりひとりにあるのは勿論のこと、その選択の先にあるものを「自分の決断の結果」として納得感を持って受け入れるには、選択をするにあたっての判断の根拠となり得るような偏りのない情報が国民に十分に共有される事が必要だと思います。
 
しかし、国は、ワクチンを打つメリット、ベネフィットは喧伝してくれますが、デメリットやリスクについては教えてくれません。
(「アゴラ」という専門家が実名で情報発信を行うプラットフォームで、新型コロナ感染症についての記事を掲載した2020年の4月から5月にかけてアクセス数が突然1/3に減少し、何故だろうと訝しんでいたら、新型コロナについて政府の見解以外の内容はヒットしないようにGoogle検索エンジンのアルゴリズムが変えられていたとアゴラ研究所所長の池田氏が述べています。動画の3:10:15のあたりです。 

 
国民には国の方針に合致するよう選別された情報だけが届けられ、副反応のリスクについては「皮膚の発赤やじんましん、その他アレルギー反応、まれにアナフィラキシーショックなどの重篤な反応をおこすことがあります」といったごく僅かで漠然とした情報しか与えられないまま、多くの人は、政府の勧奨に従い接種を決断し、「新型コロナワクチンの効果と副反応を理解し、接種に同意します。」と書かれた同意書にサインする事になりました。しかし、新型コロナワクチンの効果と副反応を正しく理解するための情報が適切に不足なく国民に与えられていたとは言えません。
 
市民が新型コロナワクチンの接種という自身やご家族の命に関わる重大な決断をするにあたり、泉大津市のように地方自治体の長が公の立場から、そのリスクについて丁寧に説明を尽くしてくれ、その上で決断を委ねてくれるというのは市民にとって非常に有り難く有益な事と思いますし、本来であれば、全ての行政体がこうあるべきという正しい姿だと思います。

新型コロナワクチンは自己免疫性疾患を発症、再燃、悪化させる!?

2020年を端緒として新型コロナウイルスが世界で猛威を振るい始め、多くの死者を出し、世界経済を後退させました。このウィルスを克服するために、世界中の国々で新型コロナワクチンの開発が急速に推し進められましたが、この危機的状況を打破する事が急務であったために、新型コロナワクチンの殆どが副作用や有効性に関する十分な研究が行われないまま承認されました。

当初、副反応として報告された症状のほとんどは、ワクチン接種部位の腫れや一時的な痛み、全身倦怠感、発熱、関節痛、筋肉痛、頭痛などであり、 重篤な副反応としては、アナフィラキシー、心膜炎、心筋炎、血栓症なども報告されていますが、ワクチン接種による利益の方が副反応のデメリットを上回ると考えられ、すべての人にワクチン接種が推奨されてきました。

しかし、ワクチン接種が回数を重ね、それによって副反応に関するデータが蓄積されるにつれ、ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)、自己免疫性肝疾患、ギラン・バレー症候群、バセドウ病、IgA腎症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、成人スチル病などの自己免疫性疾患を発症または再燃したという報告が多くなされる様になりました。

WHOの国際医薬品モニタリング制度のデータベース

( https://www.vigiaccess.org/ )で、「covid-19 vaccine」のキーワードで検索すると新型コロナワクチン接種による副反応の可能性があるとして医師や製薬会社から報告された症状とその症例の数が見れます(国からワクチン接種との因果関係を公式に認定された症例の数ではありません)。

それによると、2023年6月現在でコロナワクチン接種による副反応の可能性があるとして報告された症例のうち、肝胆道系障害の報告数は11698件、そのうち自己免疫性肝炎は790件原発性胆汁性胆管炎は41件。原発性硬化性胆管炎の報告はありませんでしたが、硬化性胆管炎(28件)や胆管炎(125件)、自己免疫性胆管炎(4件)、急性胆管炎(24件)、慢性胆管炎(2件)、免疫介在性胆管炎(2件)、肝障害(803件)、肝硬変(297件)、胆道疾患(34件)などの症例の中に含まれている可能性があります。また、潰瘍性大腸炎の報告数は1982件でした。

コロナワクチン接種によって自己免疫性疾患を発症しても、それがワクチンによるものだとは思わなかった人、報告しようとしたが医師によるバイアスで「気のせい」で片付けられてしまった人、その疾患がもともとの持病に併発する事が多い病気である為にコロナワクチンに原因があるとは考えず未報告の人も沢山いると考えられますので、実際の数は報告されたよりももっと多くなると思われます。

新型コロナワクチンが自己免疫性疾患を誘発する原因としては、

【1】ワクチンによって生成された新型コロナウイルスのスパイクタンパクと人の細胞の構造の一部が似ている為に、スパイクタンパクの抗体が人の組織と交差反応(狙った抗原と構造が似た別の抗原にまで反応してしまう事)し、自己を攻撃してしまう。

【2】人の細胞に入り込みスパイクタンパクを生成するmRNAワクチンが長い間体内に残存し、スパイクタンパクを産生し続け、それが人の細胞の表面に運ばれ、抗体やT細胞に敵として認識され、自分の免疫に攻撃される抗体依存性自己免疫反応を引き起こす。

mNRAが長期間体内に残存し続ける理由としては、mRNAが十分にスパイクタンパクを産生する前に分解され無いように、ワクチン製造段階で、mRNAを構成する塩基の1つウリジン(U)を、N1メチルシュードウリジン(Ψ)に置換する処理が行われ、ヒトの免疫から異物と認識されにくくなっているからと考えられる。

https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000757255.pdf&ved=2ahUKEwiV1ofZ587_AhWkjVYBHQ_yBhoQFnoECAcQAQ&usg=AOvVaw3rVBrvW9w_I24EQ1nBS-VV

厚生労働省 第3回医薬品等行政評価・監視委員会 資料 7ページにウリジン(U)のN1メチルシュードウリジン(Ψ)への置換についての記載

【3】免疫を活性化してワクチンの効果を増強するためにワクチンに添加されるアジュバント(免疫賦活剤/免疫補助剤)が免疫応答を過剰に強化し、免疫介在性疾患や炎症を引き起こす。このアジュバントによる症状は以前から「ASIA (Autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants アジュバント誘発性自己免疫/炎症性症候群)」として知られていたが、従来のスクワレンやアルミニウム塩を用いたアジュバントと比べて、新型コロナワクチンにアジュバントとして用いられているLNP (脂質ナノ粒子)は非常に強力な免疫賦活能を持っている事。

などが報告されています。

 

また、新型コロナワクチンに限らず同じ抗原を繰り返し接種する事で自己抗体を誘導し、自己免疫疾患を引き起こす危険がある事が2009年に日本の研究者によってマウスを用いた実験で明らかになっています。

『免疫の自己組織化臨界現象理論』

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2795160/  

免疫システムの臨界を超えるレベルで繰り返し抗原を投与し、免疫すると、ヘルパーT細胞が過剰刺激され、自己抗体を誘導できる自己抗体誘導性ヘルパーT細胞が生まれ、その後、細胞傷害性T細胞が過剰刺激され、抗原特異的細胞傷害性T細胞となり、マウスに全身性エリテマトーデスに似た自己免疫組織損傷が引き起こされたそうです。

【1】【2】については名古屋大学名誉教授の小島勢二氏による記事(記事①)が非常に分かりやすく参考になるので是非読んで頂きたいです。

記事①

『mRNAワクチン接種後に見られる自己免疫疾患の増加:新規発症機序の可能性』

https://agora-web.jp/archives/230314044129.html  

小島教授の記事によれば、

コロナワクチンの接種が開始される以前に発表された論文に、すでに、抗スパイクタンパク抗体は、検討した55種類のヒト組織抗原のうち25抗原と交差反応することが示されていたため、ワクチンの接種で産生された抗スパイクタンパク抗体が、交差反応を示すヒト臓器を攻撃して自己免疫疾患を引き起こす可能性が危惧されていた、とのこと。

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2020.617089/full 

交差反応に加えて更に自己の細胞が攻撃される原因となるのが、mRNAワクチンを取り込んだヒトの細胞の表面に表出するスパイクタンパクです。

mRNAワクチンは人の細胞内にスパイクタンパクの設計図となるRNAを送り込み、細胞内のリボソームで設計図に基づいてスパイクタンパクが合成され、それが、細胞の表面に運ばれて提示されます。ヘルパーT細胞が提示されたスパイクタンパクを異物と認識すると、B細胞はヘルパーT細胞から指示を受けてスパイクタンパクに対する抗体を産生し、同じくヘルパーT細胞から指示を受けた細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)がスパイクタンパクの存在する細胞を攻撃します。

(文字だけでの説明では分かりづらいかと思います。お時間のある方は、記事の最後の方で紹介する柳ケ瀬議員と新田准教授の対談動画を是非ご覧下さい。免疫機構とmRNAワクチンの仕組みについて詳しく説明して下さっています。)

なので、mRNAワクチンを取り込む細胞というのは、自分の身を犠牲にして、免疫細胞に攻撃されるのを覚悟の上で、スパイクタンパクをそれらの細胞に提示して覚えてもらう、いわば生け贄のような存在なのです。

製薬会社の当初の説明の通り、mRNAワクチンがスパイクタンパクを産生後、速やかに分解されれば問題はなく、注射を受けた筋肉部位にある細胞の最小限の犠牲だけで済むのですが、実際にはmRNAに施された修飾のためにそうはならず、mRNAワクチンは分解されないまま体内を巡り、体中でスパイクタンパクを産生し、生け贄を増やし続けます。

小島教授の記事①によれば、デンマークの研究では接種後最長28日間ワクチン由来のmRNAが血液中に残留し続け、10人に1人はワクチンが分解されずに一定期間血中を循環する事が判明したとの事です。

『SARS-CoV-2 スパイク mRNA ワクチン配列は、新型コロナウイルス感染症ワクチン接種後最大 28 日間血液中を循環』

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36647776/  

ファイザー 社の薬事申請資料の16ページには、マウスの筋肉に注射すると、注射された筋肉部位の他に、肝臓、脾臓、副腎、卵巣からもワクチン由来のmRNAが検出されたことが記載されています。

https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwii98WEztr9AhWvm1YBHc3gDrkQFnoECBAQAQ&url=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fcontent%2F10601000%2F000739089.pdf&usg=AOvVaw0XM415u01RCWXmKd5kTy9s

また、記事①の図2の病理組織像からは、ワクチン接種後に亡くなられた患者さんの筋肉、脳、心筋、冠動脈細胞の一部がスパイクタンパクを産生していた事が見て取れます。

更に、ファイザーが欧州医薬品庁に提出した新型コロナワクチンに関する評価報告書では、ラットでの薬物動態分布研究により、接種したワクチン総用量の比較的大きな割合 (最大 18%) が肝臓に分布することが実証されました。肝臓に重度の病因が無いラットにおいて、肝臓と胆管への影響が見られ、可逆的ではあるものの、肝臓の肥⼤、空胞化、γGTレベルの 200%を超える上昇 および活性の⼤幅な増加、AST レベルおよび活性の軽度から中程度の上昇が生じたと報告されています。

https://www.ema.europa.eu/en/documents/assessment-report/comirnaty-epar-public-assessment-report_en.pdf

(55ページ)

スパイクタンパクを認識するT細胞によって自己免疫性肝炎を発症した症例も報告されています。

『SARS-CoV-2ワクチン接種はCD8 T細胞優性肝炎を引き起こす可能性がある』

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35461912  

この研究の対象となった患者さんでは1回目のコロナワクチン接種後に肝炎を発症したが、その後、改善が見られたので、2回目のワクチンを接種したところ再度肝機能が悪化したそうです。

肝炎の重症度は、EBウィルス(ヘルペスウィルスの一種)特異的なキラーT細胞では無く、新型コロナウイルス特異的なキラーT細胞やワクチンによって誘導された免疫グロブリンの細胞傷害性表現型の活性化と相関性があったそうです。

肝臓の炎症は新型コロナウイルス感染中に観察されますが、一部の人ではワクチン接種後にも発生する可能性があり、この研究では、新型コロナワクチン接種後の肝炎症患者において、高度に活性化されたT細胞が蓄積し、肝臓のさまざまな領域に均等に分布していることが示されました。さらに、これらの肝臓浸潤 T 細胞の集団内で、新型コロナウイルスに反応性のある T 細胞の濃縮が観察され、この前後関係から、これらのワクチンに誘導された細胞が肝臓炎症に寄与している可能性があることを示唆しています。

【3】また、ワクチンに添加されるアジュバントも自己免疫性疾患を引き起こす可能性があるとして多くの論文でその危険性が報告されています。

アジュバントとは、何かについてですが、

生ワクチン以外の不活化ワクチンやmRNAワクチン、ウイルスベクターワクチンなどでは病原体が本来の形や性質とは違った形で投与されるので(熱や化学物質による処理で完全に死んでいたり、本体の断片だったり、本体の一部のRNAだったり)、生ワクチン程の免疫反応は起こせません。免疫が十分に働かないと、ワクチンの効果もあまり期待出来ないので、免疫を活性化させる為にワクチンに添加されるのがアジュバントです。また、免疫が活性化されれば、少ない抗原でワクチンの効果が得られるので、ワクチンの生産量と生産スピードが増大し、薬価も下がります。免疫機能が未発達な幼児や免疫機能が低下している高齢者に対するワクチンの効果を高める事にも寄与します。

このように、アジュバントはワクチンの有効性を高める上で必要な物ではあるのですが、反面その免疫賦活能のため(しかも、何故、免疫が活性化するのか、作用機序が未だ明らかになっていない)、新型コロナワクチンの登場以前から、インフルエンザワクチン接種後のギラン・バレー症候群やナルコレプシー、子宮頸がんワクチン接種後の線維筋痛症などワクチン接種後に発現する自己免疫性疾患や神経障害との因果関係を疑われて来ました。

2011年にイスラエルの免疫学者シェーンフェルド氏によって、いずれもワクチンやアジュバントに関係して発症する疾患であるが、別々の病気でとして扱われてきた、マクロファージ筋膜炎(MMF)、湾岸戦争症候群(湾岸戦争に従軍した兵士が短期間に多くのワクチンを接種した事で起こった病気)、ワクチン接種後の各種自己免疫疾患、シリコン樹脂による自己免疫疾患(シリコンにもアジュバント作用がある)などを統一的に一つの症候群として「ASIA (Autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants アジュバント誘発性自己免疫/炎症性症候群」と呼称する事が提唱されました。

但し、アルミニウムアジュバントを投与された患者さんで、全身性エリテマトーデスが悪化しなかった研究結果や、アルミニウムアジュバントを投与された患者さんと投与されなかった対象群を比べて投与された患者さんの方が自己免疫疾患の発症率が低かった研究結果もあり、ASIAの存在に懐疑的な論文も存在します。

https://www.chop.edu/centers-programs/vaccine-education-center/vaccines-and-other-conditions/autoimmuneinflammatory-syndrome-induced-adjuvants-asia  

これまで、日本でワクチンのアジュバントとして使用されてきたのはアルミニウム塩やスクワレンですが、今回、新型コロナウィルスに対するmRNAワクチンに採用されているのはLNP(脂質ナノ粒子)というアジュバントです。LNPは油の膜のようなものでmRNAはこれに包まれて細胞内に送り込まれます。LNPの免疫賦活作用はこれまでのアジュバントに比べても非常に強力で、下の図の様に、インフルエンザの抗原を投与されたマウスにおける免疫反応を調べた研究では、mRNAを全く含まないLNPのみの接種、あるいは接種したインフルエンザ抗原とは全く無関係の(要するに役に立たない)mRNAを内包したLNPの接種によって、抗原のみの接種の256倍以上、従来型のスクワレンによるアジュバントの8倍以上の中和抗体を産生しています。

【図1】

このように、LNPが誘導する免疫反応は非常に際立ったもので、それによる炎症性の高さも懸念されています。下に示す論文では10μgのLNP をマウスの皮内に注射したところ、大量の好中球浸潤、多様な炎症経路の活性化、およびさまざまな炎症性サイトカインとケモカインの産生を特徴とする、急速かつ強力な炎症反応を引き起こし、同量のLNPを鼻腔内に投与すると、肺でも同様の炎症反応が引き起こされ、80%のマウスが24時間以内に死亡したそうです。

『前臨床ワクチン研究で使用される mRNA-LNP プラットフォームの脂質ナノ粒子成分は炎症性が高い』

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8604799/#bib17  

因みに、新型コロナワクチンから話が逸れますが、前述したようにインフルエンザワクチンなどの新型コロナワクチン以外のワクチンにもアジュバントは含まれています。

新型インフルエンザワクチンについては、日本製のワクチンにはアジュバントは含まれていませんが、海外から輸入したワクチンにはアジュバントが含まれています(なので日本製のワクチンは副反応は少ないが効き目も少ないと言われている)。

厚生労働省の新型インフルエンザQ&Aのページには

「スイスでは規制当局がノバルティス社製ワクチンを自己免疫疾患の患者に用いるべきではないとの勧告を行ったが、日本でも自己免疫疾患の患者に対してこのワクチンを使わないようにするのか? 」

との問いに対し

「スイス規制当局からの要請により、輸入ワクチンの製造会社であるグラクソ・スミスクライン社とノバルティス社は、

『本剤に対する明らかな自己免疫疾患の患者を含んだ臨床試験は存在しない。また、抗原及び/又はアジュバントが自己免疫疾患の悪化をもたらす可能性を否定できないため、急性で重篤な自己免疫疾患の患者に対する本剤の接種は、推奨されない。』

と添付文書を改訂したが、スイス以外の国では添付文書の改訂は求められていない事、ヨーロッパで、輸入ワクチンの投与後に、膠原病などの自己免疫疾患の症状が悪化したとの報告はあるが、因果関係は不明とされていることなどをふまえ、自己免疫疾患をお持ちの方々が、輸入ワクチンを接種する際には、よく医師と相談した上で、接種の必要性をご判断ください。なお、我が国では、自己免疫性疾患に限らず、重篤な急性疾患である場合には接種不適当とされております。」

と回答されているので、もしもインフルエンザのワクチンを接種される場合には海外製のものでないか十分に注意されて下さい。

個人的にはアジュバントの添加も心配ですが、臨床試験で自己免疫疾患の被験者さんに対する調査は行われていないという点も心配です。

また、「新型インフルエンザワクチンは他のワクチンと同時接種出来るか?」

という問いに対し、

「輸入ワクチンにはアジュバントが入っているため、他のワクチンとの同時接種は控えることが望ましい」と回答があるので、その点にもご注意下さい。

厚生労働省 新型インフルエンザQ&A

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/inful_vaccine_qa.html 

以上【1】【2】【3】が新型コロナワクチンが自己免疫疾患を引き起こすのではないかと考えられる理由になりますが、自己免疫疾患の発症と悪化に対する懸念とは別に気がかりな点が一つあります。

下の図はワクチン投与前(○)、投与2日後(緑○)、8日後(緑♢)の、CRP値(グラフa)、リンパ球(グラフb/ Lymphocytes)、好中球(グラフc/ neutrophils)の数を表したグラフですが、実際の製品と同じ30μgのワクチンを投与された被験者さんのグラフを見ると、投与2日後にリンパ球の数が減少し、大半の方が基準値(点線部分)を下回ってしまっています。もしこのリンパ球が減少したタイミングで、ワクチンでは無く、本物の新型コロナウイルスや他の致命的な疾患の原因となるウィルスに感染してしまったら、ワクチンを打たずに感染した場合よりも更に危険な事になるのではないかと思います。もし、新型コロナワクチンを接種する場合は、リンパ球の数が回復する接種後8日までは特に細心の注意を払って感染対策をした方が良いと思われます。

【図2】

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.12.09.20245175v1.full 

また、今日では、コロナワクチンの副反応による自己免疫疾患発症の可能性を報告する論文が海外で多く発表されていますが、日本においても例外ではなく、横浜市立大学医学部の教授らが、実際にigG4関連疾患を発症した症例を具体例に挙げて、新型コロナワクチンが自己免疫性疾患を引き起こす可能性を示唆する論文を発表されています。(記事の最後に日本語訳を載せておきます)

論文①

『新型コロナウイルス感染症ワクチン接種と自己免疫疾患の発症』

https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/62/10/62_1490-22/_article/-char/ja/ 

また九州大学病院においても

「本邦において、2021年2月よりCOVID-19ワクチンの接種が始まり、2021年12月には概ね8割程度の国民が2回の接種を終えていますが、いくつかの自己免疫性疾患において、新型コロナワクチン投与後に原疾患の病勢が再燃した症例報告が散見されています。一方で、自己免疫性疾患である潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患においては、COVID-19ワクチン投与後の有害事象に関する調査報告において、病勢の再燃率は2%と報告はあるものの、再燃した症例に関する具体的な検討はなく、詳細は依然として不明です。

 そこで今回我々は炎症性腸疾患において、COVID-19ワクチン投与が、原疾患の病勢の再燃に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、本研究を計画しました。」

として、COVID-19ワクチンの炎症性腸疾患の再燃に及ぼす影響の調査を実施されています。

https://www.intmed2.med.kyushu-u.ac.jp/gut/clinical_16/ 

ここまで、新型コロナワクチンの危険性について述べてきましたが、下記の

『新型コロナワクチン接種が炎症性腸疾患の活動性とワクチン関連の有害事象の発症に及ぼす影響』

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8822409  

という論文によれば、ワクチン接種によって炎症性腸疾患を再燃したのは30日間の調査期間で3316人中71人(2.1%)と低く、ワクチンは安全で信頼性があるという結論でした。

参加された炎症性腸疾患の被験者さんのうち54.6%はクローン病の患者さんで、潰瘍性大腸炎の患者さんの割合は論文からは読み取れませんでした。

ファイザー社製のワクチンを接種した1908人中48人(2.5%)、モデルナ製ワクチンを接種した1247人中22人(1.8%)、ジョンソン&ジョンソン製ワクチンを接種した161人中1人(0.6%)の患者さんが炎症性腸疾患を再燃したそうです。

また、ワクチン関連の深刻な副反応により救急外来への来院または入院が必要となった参加者は、ワクチン1回目接種後に10 名(0.3%) 、2回目接種後に6 名だったそうです。

客観的な数値としてはそれほど高くないように思いますが、もし他人事では無く現実として自分が、3316人中、1回目と2回目の延べ人数で16人が緊急外来への来院や入院が必要になるほどの有害事象を生じるワクチンを打てるかと聞かれると少し難しいように思います。

深刻な有害事象を生じるリスクを上昇させた要素は、一回目の接種に関しては、「新型コロナウイルスの感染歴」「性別が女性である事」「ワクチンがモデルナである事」であり、2回目の接種に関しては「年齢が50歳未満である事」「女性である事」「ワクチンがモデルナである事」「抗TNF薬やベドリズマブを使用している事」でした。これらのお薬を服用されている方は注意された方がいいと思われます。

炎症性腸疾患の再燃率の2%という数値に関しても、専門家の方は低いと判断されるのかも知れませんが、2回目の接種から30日の追跡期間で3316人中71人(2.1%)もの人が再燃してしまうのは一般人の感覚ではあまり安心とは感じられないように思います。

また、新型コロナワクチンによる感染予防効果についても、ワクチン2回目の接種の時点ですでに存在しなかったと明らかになっています。

2022年5月11日の資料によると、4月11~17日に40~49歳、60~64歳、65~69歳、70~79歳の各世代で、4月18~24日には30~39歳の世代でもワクチンを2回接種した人の感染者数(10万人あたり)が未接種者の感染者数を上回り、ワクチンを接種した人のほうがしなかった人より感染しやすいといった状況になっています。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00454/053100005  

今年(2023年)4月に発表された、米国のクリーブランドクリニックにおける5万人以上の被験者を対象とした研究でも2価ワクチンを打った人より打たなかった人のほうが発症率が低いという結果が出ています。そればかりか、ワクチンを打った回数が多ければ多い程、発症率が高いという事がグラフから読みとれます。

【図3】

『新型コロナウイルス感染症2019二価ワクチンの有効性』

https://academic.oup.com/ofid/article/10/6/ofad209/7131292  

しかしながら、治療のために免疫抑制剤を服用しておられる方にとっては、感染以上に重症化リスクが心配される所だと思います。

デルタ株においては、免疫抑制剤を服用しておられる方の死亡リスクはそうでない方の約6.7倍でした。

https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000823697.pdf&ved=2ahUKEwjE46GI39T_AhVfglYBHe5UDhIQFnoECAsQAQ&usg=AOvVaw2kpk8pe3uwwWv1FUzlyrby

オミクロン株における重症化リスクについては、見つける事ができた資料の中のサンプル数が少ないために、あまり参考には出来ないかも知れませんが、化学療法・免疫抑制・調整剤を使用されてる方の中等症Ⅱ(酸素飽和度93%以下で酸素投与必要)以上への重症化リスクはそうでない方の2.49倍でした。

https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000977550.pdf&ved=2ahUKEwi3lNykndf_AhWLh1YBHT6mAdQ4HhAWegQIAhAB&usg=AOvVaw0w8fMNIhCeRQ74DFcd6qrG

重症化リスク因子を抱えておられる方にとっては、新型コロナワクチンの効果についても重症化予防効果の方が目的とされる所かもしれません。

以下の重症化予防効果についての研究では

「オミクロン流行初期においては、2回接種後6ヶ月以降で、呼吸不全を伴うCOVID-19肺炎に対しては低下したが(点推定値:42%)、人工呼吸器を要するCOVID-19肺炎に対しては高い有効性(点推定値:92%)であった(ともに信頼区間が広く解釈に注意が必要)。また、ブースター(3回目)接種により、呼吸不全を伴うCOVID-19肺炎および人工呼吸器を要するCOVID-19肺炎に対して、ともに有効性が高まった(点推定値:それぞれ86%、>99%)。」

との結果が国立感染症研究所から報告されており、重症化の度合いや、接種回数で予防効果に42%から99%までのばらつきが見られたものの、3回目の接種までに関しては一定の重症化予防効果が示されています。

ただ、この研究の重症化予防効果の算出方法が私には上手く理解できませんでした。研究の対象となったのは急性期病院に呼吸不全で入院した患者さんで、「ワクチン接種者で呼吸不全で入院したがPCR陽性だった人(コロナだった人)の数とワクチン接種者で呼吸不全で入院したがPCR陰性だった人(コロナじゃなかった人)の数の比」を「ワクチン未接種者で呼吸不全で入院したがPCR陽性だった人の数とワクチン未接種者で呼吸不全で入院したがPCR陰性だった人の数の比」で割ったオッズ比を1から引いて重症化予防効果を算出していましたが、これでわかるのは、そのままストレートに、ワクチン接種者とワクチン未接種者それぞれにおいて、呼吸不全になった原因がコロナである事が多いのか、それとも他疾患である事が多いのかと言うことだけではないかと思うのですが、、。「コロナが重症化した人とコロナが重症化しなかった人」の比ではなく、「コロナが重症化した人とコロナ以外の病気が重症化した人」の比でコロナの重症化率を出せるんでしょうか?

 呼吸不全で入院した人のみのデータから、全体の重症化予防効果を出そうとするなら、「ワクチン未接種者全体の中における呼吸不全に繋がりそうな基礎疾患を持っている人の割合」と「ワクチン接種者全体の中における呼吸不全に繋がりそうな基礎疾患を持っている人の割合」の比が分かっていないと全体の重症化予防効果は出せない気がするんですが、、。

分かる方がいたら教えて頂けると助かります。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/12019-covid19-9999-2.html 

上記の研究では新型コロナワクチンには重症化予防効果が認められるという事でしたが、ワクチンの重症化予防効果については、多様なデータが示されています。

以下は浜松市が2022年の1月から7月までのコロナ感染者とワクチン接種回数に関するデータをグラフ化したものですが、ワクチン未接種者よりもワクチン接種者の方が中等症以上に重症化する割合が高くなっています。

【図7】

https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/koho2/emergency/covid-19/index.html

(なお、どのような事情があったのかは推察することしか出来ませんが、現在ではそのページは削除されています)

また、以下の英国国家統計局のデータを元にした記事(2022/7公開)では、英国人のワクチン接種の割合が約91%であるのに、死亡者に占めるワクチン接種者の割合が94%で、91%を超えているので、ワクチンには死亡を防ぐ効果が無いと報告しています(死亡を防ぐ効果があるのならば、全死亡者に占める接種者の割合がワクチン接種率の91%より低くなるはず)。

『新型コロナウイルスワクチンによる死亡予防効果はゼロ、ONSデータが示唆』

https://dailysceptic.org/2022/07/27/covid-vaccines-give-zero-protection-against-death-ons-data-suggest/  

また、下のグラフは各国の100人あたりのブースター接種の合計回数を表したものですが、日本以外の国は2022年の前半で既にワクチンの接種を殆どやめてしまっています。日本だけが着々とワクチンを打ち進めて行っている状況です。

【図4】

 

そして、下に示したのが新型コロナウイルスによる累積死者数のグラフになりますが、ワクチン接種をやめてしまった国よりもワクチンを打ち続けている日本の方が累積死者数の増加率が高くなっています。

【図5】

 

下に示したのは日本と韓国の新型コロナウイルスによる累積死者数を表したグラフですが、同じアジアの国で対比するとワクチン接種と非接種の結果の明暗はより鮮明になります。ワクチンを打ち進めた日本は累積死者数が大幅に増加し、ワクチンを打つのをやめた韓国は累積死者数の伸びが鈍化しています。

【図6】

この結果を見るとワクチン接種に重症化を防ぐための効果があったのかどうかには大きな疑問が残ります。

4回目のワクチン接種については、2022年の初頭の段階ですでに、欧州医薬品庁(EMA)が「現時点で4回目接種を支持するデータはない」とし、その必要性に疑念を示していました。

EMAのワクチン戦略責任者、マルコ・カバレリ氏は記者会見で「追加のブースター接種は緊急時の対応策の一部となり得るが、短い間隔で接種を繰り返すのは持続的な長期戦略にはならない」と指摘。

仮に4カ月ごとにブースター接種を行えば、免疫システムに過剰な負荷を与え、国民の疲弊につながる恐れがあるとしています。

https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-ema-briefing-idJPKBN2JM0C4 

ワクチン接種でむしろ免疫反応が低下してしまう原因として「igG4の増加」「繰り返しの刺激による免疫寛容の形成」「ADE; 抗体依存性感染増強」「抗原原罪」などが挙げられます。

まず「igG4の増加」についてですが、抗原に対して産生される抗体は免疫グロブリンと呼ばれ、免疫グロブリンにはIgG、IgM、IgA、IgD 、IgE

の5つのクラスがあります。

ワクチン接種によってスパイクタンパクに対して産生される抗体はigGであり、igGにはigG1、igG2、igG3、igG4という4つのサブクラスがあります。

ウィルスや細菌などの異物を排除する際に効果的に働くのがigG1やigG3であり、igG4は免疫応答が極めて弱く、igG1やigG3ほど上手くウィルスや細菌を排除する事が出来ません。その上、他の抗体が病原体に結合して攻撃しようとする時に抗体の方にくっついて攻撃を邪魔するという性質があります。なので、花粉など本来排除しなくていい抗原が侵入した場合、それらに抗体がくっつくのを邪魔してアレルギー反応を抑えるという役目はあるのですが、病原体など排除すべき抗原が侵入した時には、igG4の存在はヒトにとってあまり助けにはなりません。

 しかし、新型コロナワクチンの接種を繰り返すとスパイクタンパク抗原が侵入してきてもigG3は殆ど発現しなくなり、代わりに、本来なら極めて少ない量しか存在しないはずのigG4が激増します。その事は以下の論文で実証されており、接種前からワクチン2回目接種後までは殆ど検出されなかったigG4が、ワクチン2回目接種の210日後におけるフォローアップ調査の時点で、igG3に取って代わるように激増しています

『SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種を繰り返した後、非炎症性スパイク特異的IgG4抗体へクラススイッチ』

https://www.science.org/doi/10.1126/sciimmunol.ade2798

下の図のグラフBで示されているのが、被験者から採取された血清中のigG1、igG2、igG3、igG4 の検出量です。灰色の○で表されているのは感染してしまった人です。

グラフCで示されているのは、抗スパイクタンパクigGの応答に占める各々のigGサブクラス(igG1,igG2,igG3,igG4)の割合ですが、2回目接種後には全体の0.04%しか見られなかったigG4の応答が、2回目接種の210日後には4.82%になり、3回目接種の180日後には19.27%にまで膨れ上がっています。

【図7】

この論文の内容を受け、ワクチン接種によるigG4の増加は免疫機能を低下させ新型コロナウイルスに対する抵抗力を弱め、また、がんを促進する危険性があると警鐘を鳴らしているのが次の論文です。

『ワクチン接種の繰り返しによって誘導される IgG4 抗体は、SARS-CoV-2 スパイクタンパク質に対する免疫寛容を生成する可能性がある』

https://www.mdpi.com/2076-393X/11/5/991 

以上の論文の内容については、次の動画で東北有志医師の会の駒野博士が非常に丁寧に解説して下さっています。学校の教材にすればいいのではと思うくらいの分かりやすさなので、時間がある人はぜひご覧下さい。

https://www.nicovideo.jp/watch/sm42355459 

東北有志医師の会 ホームページ

https://tohokuishi.localinfo.jp/

igG4は、Bリンパ球、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、好中球などの免疫細胞のfc受容体と結合するためのfc領域の親和性が弱く、免疫細胞と上手く結合出来ません。そして、補体という本来、抗体と協力して抗原を攻撃してくれるはずのタンパク質と結合する事も出来ません。

なので、igG1やigG3などの他のサブクラスの抗体と比べて、免疫応答が非常に弱いです。

そして、igG4のfc領域は免疫細胞のfc受容体との結合性は弱いですが、他の抗体のfc領域とは上手くくっつきます。そして、病原体を攻撃しようとしている他の抗体にくっついて攻撃を邪魔します。よって、新型コロナウイルスに感染した時に、体内でのigG4の発現が多いと言うことは、ウィルスを効果的に排除出来ない事を意味します。

以下の論文によれば、igG4の発現レベルとコロナウイルス感染時の生存率には負の相関性があり、igG4の発現レベルを見る事で新型コロナウイルス感染症の転帰を予見する事が出来ると述べています。

グラフBの上の図は、経過日数(横軸)とigG4の発現量が700mg/Lを超える場合と超えない場合の生存率(縦軸)、下の図は、経過日数とigG4とigG1の比がが0.05を超える場合と超えない場合の生存率を表しています。20日が経過した時点で、igG4の発現量が700mg/Lを超える場合は、700mg/Lを超えない場合より40%も生存率が低い事が分かります。

このように、ワクチンを接種すればするほど、ウィルスは免疫を回避しやすい環境を手に入れ、新型コロナ感染症は重症化しやすくなるのです。

【図8】

『血清IgG4レベルは新型コロナウイルス感染症関連死亡率を予測する』

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8461218/  

論文では、igG4増加するとがんが進行する仕組みにも触れています。

前述のように、igG4 には他の抗体のfc領域に結合してその抗体による病原体への攻撃を邪魔する性質があります。がん細胞を攻撃しようとがん抗原に取り付いたigG1のfc領域に、補体やナチュラルキラー細胞やマクロファージよりも先にigG4が結合してしまい、また、ナチュラルキラー細胞やマクロファージ側のfc受容体にもigG4が結合し、免疫細胞や補体による補体依存性細胞障害(CDC)抗体依存性細胞障害(ADCC)抗体依存性細胞貪食(ADCP)といった免疫応答を阻害してしまいます。

その結果、がん細胞を排除出来なくなり、がんが進行します。

※補体依存性細胞障害(CDC)とは、補体に、病原体と結合した抗原が作用する事で、補体が膜攻撃複合体を形成して病原体の細胞膜に穴を開ける事。

抗体依存性細胞障害(ADCC)とは、ナチュラルキラー細胞やマクロファージなどのfc受容体に病原体と結合している抗体のfc領域が結合する事でシグナル伝達経路が活性化され、溶解酵素、グランザイム、腫瘍壊死因子(TNF)など様々な物質が分泌され、病原体を攻撃する事。

抗体依存性細胞貪食(ADCP)とは、病原体の抗原に抗体が結合する事で、マクロファージや好中球などの貪食活性(異物を取り込んで消化する働き)を持つ細胞が呼び寄せられ、病原体を除去する働きの事。

【図9】

下の図は悪性黒色腫という皮膚がんの患者さんの生存率とigG4の発現レベルの関係性を表したグラフですが、がんにおいてもigG4の発現レベルと生存率には負の相関性がある事が示されています。

igG4とigG全体の比が0.04を超える患者群と超えない患者群では40ヶ月経過後の生存率に40%の開きがあるのが分かります。

【図10】

『IgG4 サブクラス抗体は黒色腫における抗腫瘍免疫を損なう』

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3613918/  

このように、新型コロナワクチンによるigG4の増加は、免疫応答を低下させる事によって、新型コロナウィルス感染症自体を悪化させるだけでなく、他の疾患も進行させてしまいます。

オミクロン株は、以前の株と比較して毒性が弱く、新型コロナウイルスによるコロナ肺炎で亡くなる人は減少しましたが、基礎疾患が悪化して亡くなられた高齢者が多かったようです。

新型コロナワクチンの繰り返しの接種で、igG3が応答しなくなった状態でigG4が増加し、免疫が機能不全を起こした結果、新型コロナ感染症だけでなく基礎疾患に対するコントロールも失ってしまい、死亡に至ってしまったケースと考えられます。

また、igG4の増加は、重症筋無力症や突発性膜性腎症といった自己免疫疾患を引き起こす危険性も指摘されています。

「繰り返しの刺激による免疫寛容の形成」についてですが、

新型コロナウイルスに限らず、B型肝炎ウイルスなどにおいても、同じ抗原に慢性的にさらされ続けることによる免疫細胞の機能不全が報告されていました。新型コロナウイルスに関しても同じスパイクタンパク抗原を何度も繰り返し接種した結果、一度獲得したはずの免疫が損なわれ、追加接種しなかった場合よりも免疫応答が大きく低下したという動物実験の結果が報告されています。

以下の論文では、マウスにおいて、mRNAワクチンではないですが、スパイクタンパクの一部を抗原とするワクチンを4回接種した群とその後6週間で2回追加でブースター接種した群を比較したところ、後者のブースター接種した群では、しなかった群に比べ、抗体産生が大幅に減少し、従来株はもちろん、デルタ変異株やオミクロン変異株に対する中和抗体反応も有意に減少しました。そして、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞の活性化が著しく阻害され、細胞傷害性T細胞によるエフェクターサイトカイン(IL-2、IFN-γ、TNF-α)の分泌レベルの大幅な低下、免疫記憶の喪失(メモリーB細胞、メモリーT細胞の減少)、制御性T細胞の増加と、繰り返しの抗原刺激が誘発したT細胞の疲弊(免疫チェックポイント受容体PD-1とLAG-3の表面発現の増加)による免疫抑制のために、ワクチン接種の初期に確立した体液性免疫と細胞性免疫の両方が著しく損なわれることが明らかとなった、とあります。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9625849/ 

「ADE (抗体依存性感染増強)」とは、ワクチン接種で獲得する抗体には、病原体に結合して攻撃するものと、逆に病原体に結合して免疫細胞に感染しやすくするもの(感染増強抗体)の2種類があるのですが、後者の悪玉の抗体の方が活性化して感染や症状をむしろ促進してしまう現象で、過去にデング熱ワクチンなどで報告されました。

新型コロナワクチンのADEに関しては、現時点では確認されていないと厚生労働省のサイトで報告されています。

https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0093.html  

しかし、感染を防ぐ抗体は、スパイクの頭の部分(RBD)に結合し、感染を増強する抗体は頭の横斜め下のNTDという部分に結合する性質があります。ウィルスの変異により形が変わるのはスパイクのNTDの部分ではなく頭の部分(RBD)である事が殆どのため、今後、変異により感染を防ぐ抗体の方は役目を果たさなくなり、感染を増強する抗体の機能だけが残り、感染が促進される危険性があります。

「抗原原罪」とは、免疫細胞が以前に獲得した抗体の記憶に引きずられて新しい変異株に対する抗体を獲得しにくくなる現象で、インフルエンザワクチンなどで報告されています。

新型コロナワクチンについても、マカクザルに、初期型のモデルナ製ワクチンとオミクロン対応型ワクチンをブースター接種して、中和抗体レベルとB細胞の拡大、オミクロンウィルスの抗原投与に対する反応を調べたところ、初期型のモデルナワクチンを投与された群とオミクロン対応型ワクチンを投与された群の検査値に違いは全くなかったため、抗原原罪の影響が示唆されています。

https://www.science.org/content/blog-post/omicron-boosters-and-original-antigenic-sin

また、新型コロナワクチンはその副反応の発生頻度の高さから医薬品としての安全性が疑問視されています。

次に示すのは、小島教授が作られた、2022年10月の時点での、予防接種法に基づいて、医療機関と製造販売業者から報告された新型インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの副反応報告数を比較した資料です。

(小島教授と柳ケ瀬議員の対談動画の中からキャプチャーさせて頂きました。)

動画

https://www.youtube.com/live/p4GGf9LOvEg?feature=share  

【図11】

 資料を見てわかるのは、新型インフルエンザワクチンと比較したときの新型コロナワクチンの異常な程の副反応報告の多さです。

死亡報告数は新型コロナワクチンが100万人あたり6.22件

      新型インフルエンザワクチンが100万人あたり0.13人

と、新型コロナワクチンは新型インフルエンザワクチンの約48倍の死亡率になります。

若い男性では心筋炎の発症率が非常に高く、モデルナ社のワクチンでは10代の男性で発症数が100万人あたり150人を超えています。

(厚生労働省資料

https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://www.mhlw.go.jp/content/000844011.pdf&ved=2ahUKEwjRzeuvy9j_AhUHAd4KHTcfAcMQFnoECBIQAQ&usg=AOvVaw1ifUQWvDbGykaqkZebJsQd )

 人類史上初となるmRNAワクチン(人類がmRNAワクチンを使うのは新型コロナワクチンが初めて)を「ワープスピード」と呼ばれる驚異的な速さで実用化するために、通常5年以上かかる治験が一年に短縮され、本来最も重要視されなければならない安全性の確認がおろそかにされた結果なのではないでしょうか。

そして東京理科大学名誉教授 村上康文氏は同一の抗原を繰り返し接種することの危険性について警鐘を鳴らしています。

以下の内容は、同氏が2021年9月にメディアで発表したものですが、新型コロナウィルスのスパイクタンパク抗原を複数回マウスに投与する実験を行ったところ、5回目の接種から死んでしまう個体が現れ始め、7~8回目には生き残っている個体は殆ど居なかったそうです。(メディアには、あまり不安を煽らないように控えめに、半分近くが死んでしまったと発表したが、実際には、ほぼ全滅だったそうです)

 そして、本来なら、動物で5回接種の安全性を確かめてから製品化すべきなのに、製薬会社は、5回目の接種を動物では実験しないまま製品化し(動物は実験で投与されたワクチンが初回の接種)、ヒトに打っています。もちろん、ヒトとマウスでは体の大きさや遺伝子構造も異なるので、マウスで起こったことがそのままヒトに起こるわけではありませんが、私達日本人は自覚の無いまま、「ヒトにおける初めての5回目接種の安全性を確かめる実験の被験者」になってしまっているのです。

【図12】

<緊急座談会>3,4回目ワクチン接種をすすめない理由 №1<編集・再アップ>

https://www.nicovideo.jp/watch/sm40895964  

以下は元自民党議員秘書の藤江成光氏が作成された超過死亡とワクチン接種の相関を示すグラフを下に添付したURLの動画からキャプチャーさせてもらったものです。

ワクチン接種の回数を表す棒グラフと超過死亡数を表す折れ線グラフがキレイに同期しているのが見て取れます。

【図13】

https://youtu.be/6DNd6qirMc0  

超過死亡とは、過去の統計をもとに推定した死亡者数を実際の死亡者数がどれだけ上回ったかを示した値です。ただし、各国で共通する一律の超過死亡の算出方法は定められていません。

 

ヨーロッパにおいても、31か国におけるワクチン接種率と超過死亡の関係性を分析した研究で、2021年のワクチン接種率が⾼いほど、2022年の最初の9か⽉間における全死因死亡率がより増加したことが⽰されそうです。 2021年のワクチン接種率の1パーセント増加は、2022年の⽉次死亡率0.105%増加と関連していたとのことです。

『2021年のヨーロッパにおける新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種率と2022年の全死因超過死亡率の間に関連性はあるのか?』

https://hvlopen.brage.unit.no/hvlopen-xmlui/handle/11250/3062560

また、ワクチンによって抗原として体内に生成されるスパイクタンパク質そのものの毒性も懸念されるところです。以下の論文によれば、血液凝固プロセスの重要な因子であるヘパラン硫酸 (HS)/ヘパリンは、スパイクタンパク質に高い親和性で結合することが判明したとのこと。スパイクタンパク質がアンチトロンビン(抗凝固因子)およびヘパリン補因子IIのヘパリン/ヘパラン硫酸(血液凝固を制御する)への結合を競合的に阻害し、トロンビン(血液凝固に関わるタンパク質のフィブリノゲンを分解活性化してフィブリンにする分解酵素)活性の異常な増加を引き起こし、血液凝固や血栓症の原因となる可能性があるとのことです。

『SARS-CoV-2 スパイクタンパク質はヘパラン硫酸との競合結合により血液凝固と血栓症を引き起こす』

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8553634/  

以上のような副反応の多さと安全性の欠如から、ドイツではファイザーと提携して新型コロナワクチンを開発したビオンテック社を相手取って、新型コロナワクチン後遺症に対する賠償を求める訴訟が350件以上起こされています。

しかし、ビオンテック社は「製品情報に記載されている以外の副反応の可能性は確認されていない」と述べ(その副反応の可能性は最初から製品情報に書いてあったから問題ないと言いたいのでしょう)、記事は、被害者の症状がワクチンによるものだと後付けで確実に立証できる根拠を提示する事は現代医学では困難であるため、原告が勝訴するのは難しいのではないかと予想しています。

クーリエ・ジャポン

『独ビオンテック社を悩ます、「新型コロナワクチン後遺症」に対する訴訟の嵐』

https://courrier.jp/news/archives/329132/

なお、オミクロン株流行期以降の重症化率、死亡率ついては

「BA・5」が流行した2022年の7~8月でみると、重症化率は60歳未満が0・01%、60~70歳代が0・26%であり、致死率は60歳未満が0・00%、60~70歳代が0・18%、80歳以上が1・69%でインフルエンザの0・01%、0・19%、1・73%とほぼ同水準になっています。

【画像14】

https://www.yomiuri.co.jp/medical/20221221-OYT1T50205  

厚生労働省の資料からもオミクロン株以降の重症化率と致死率の低下が読みとれます。

【画像15】

https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://www.mhlw.go.jp/content/000927280.pdf&ved=2ahUKEwjS2sam2NT_AhXFlFYBHS-ZCUMQFnoECA0QBg&usg=AOvVaw2ueJ1WhEKnTXKrSqRcdqA8

現在、国内の流行の主流となっているオミクロン株のXBB系統に関しても特に重症化しやすいというデータはないそうです。

https://youtu.be/ejLBIuEsb4o  

現在接種可能なワクチンがXBB系統に対応しているかについてですが、2023年の9月頃にオミクロン株XBB系統対応ワクチンが製品化されるまでは、日本で接種可能な新型コロナワクチンは武漢株とオミクロン株BA.4/5を抗原とする2価ワクチンだけです。厚生労働省の資料によれば、今の2価ワクチンでは、XBBに対する中和抗体価の上昇は武漢株に対する中和抗体価の上昇の1/85しか無いそうです。今や世の中に出回っている新型コロナウイルスの大部分はオミクロン株で武漢株は殆ど残存してないのに、不必要な抗体を沢山産生して、必要な抗体を僅かしか作らないのでは意味が無いし、武漢株という同じ抗原を何度も接種するのも副反応のリスクが高いと考えられます。

【図16】

https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001108598.pdf&ved=2ahUKEwjI68K8zuv_AhWSZ94KHZTcAMEQFnoECAcQAQ&usg=AOvVaw1bAebYXETYRs2hHeaO_ZXb

 

 

流行株がオミクロンに置き換わり、その毒性が新型コロナウイルス発生当初よりは弱まっているとは言え、基礎疾患等の重症化リスクを抱えておられる方々にとっては、依然として新型インフルエンザ同様に決して軽視出来ない感染症であるのは確かです。

しかし、既にワクチンを2回打っている人や新型コロナウイルスの感染歴のある人は、スパイクタンパク抗原と戦って獲得した免疫記憶をメモリーT細胞が長期に渡って保持し続けます。そして次回同一の病原体が侵入してきた際には素早く免疫応答することが可能になります。
また、抗体は抗原の形が少しでも変わると結合性が弱まり、効力も低下してしまいますが、T細胞は少々の変化では標的を認識する能力を失わず、変異株にも交差反応し排除に働きます。

ワクチンの追加接種を行っても、メモリーT細胞とは異なり、抗体は6ヶ月で90%減少し、ウィルスが変異すると抗体の有効性は更に低下します。

既に獲得済みの免疫の効果、追加接種で被る自己免疫疾患の発症や進行のリスク、繰り返しの抗原刺激で免疫が低下するリスク、アナフィラキシーや心筋炎などの重篤な副反応のリスク、変異株の弱毒化等を考慮すると是が非でもワクチンを打たなければ、と思われるような状況は脱して来ているのではないでしょうか。

 


 

ここまで様々な情報を提示してきましたが、これを持ってワクチンを打つべきか打たないべきかを医療関係者や研究者ではない私が断定する事は出来ません。

 

ただ、患者さんの行われる意思決定が世の中の全体的な雰囲気や圧力によって歪められることなく、ワクチンのメリットとデメリットの両方を知り、接種の妥当性を正しく検討出来る環境においてのものであって欲しいと思います。

 



 

 

【補足】

 

免疫反応や新型コロナワクチンの仕組みについて日本維新の会所属の柳ケ瀬裕文参議院議員と東京大学新田准教授による以下の動画がとても参考になりました。

 

https://www.youtube.com/live/5dxZ5L6QQQ8?feature=share  

https://www.youtube.com/live/aO7cf0jgGVE?feature=share 

 

 

動画内容に1点だけ訂正があり、1つ目の動画の1:05:05あたりに出てくるリンパ球の減少に関する資料はBNT162b1という新型コロナワクチンに採用されなかったmRNAについてのデータであり、ワクチンに採用されたBNT162b2というmRNAに関するデータは訂正動画の中で示されています。この記事中の【図2】と同じ資料になります。BNT162b1のデータに比べてリンパ球の減少の程度は穏やかになっていますが、製品と同じ30μgの投与された被験者さんの大半が基準値を下回る水準までリンパ球が減少しています。

https://www.youtube.com/live/LiHdvnOgYkQ?feature=share  

 

 

 

また、「新型コロナワクチンは自己免疫性疾患を発症、再燃、悪化させる!?③」の中でも少し紹介させて頂きましたが、柳ケ瀬議員と名古屋大学名誉教授 小島勢二氏との対談動画もワクチンの副反応リスクを知る上でとても参考になります。

 

https://www.youtube.com/live/p4GGf9LOvEg?feature=share 

 



 

記事①

mRNAワクチン接種後に見られる自己免疫疾患の増加:新規発症機序の可能性

ファイザーやモデルナ製のコロナワクチンは、人類初のmRNAワクチンということでその安全性が懸念されるが、mRNAは短期間で分解されるので安全性についての問題はないと説明されている。最近、この説明に疑問を投げかける研究結果が報告されている。

デンマークからは、ワクチン由来のmRNAが、接種後最長28日間血液中に存在することが報告された。次世代シーケンサーを用いてRNAシーケンスを行うとmRNAの配列情報を網羅的に読み取ることができる。ヒトのRNAばかりでなく、ウイルスやワクチン由来の遺伝子配列情報をも読み取ることが可能である。

検討した108人のうち、10人の血中からワクチン由来の全長あるいは部分的な遺伝子配列が検出された。ワクチンが接種されると、10人に1人はワクチンが分解されずに一定期間血中を循環することが判明した。

この結果は、ワクチン由来のmRNAが注射された筋肉のみでなく全身の臓器に運搬されることを意味する。実際、ファイザー 社の薬事申請資料 には、マウスの筋肉に注射すると、注射された筋肉部位の他に、肝臓、脾臓、副腎、卵巣からもワクチン由来のmRNAが検出されたことが記載されている。各臓器の細胞に取り込まれたmRNAはリボゾームでスパイクタンパクを産生し、産生されたスパイクタンパクは細胞の表面に運ばれて、抗体やT細胞に認識される(図1)。

 

図1 mRNAワクチンの仕組み

筆者作図

細胞表面に分布するスパイクタンパクは、免疫染色によってその存在を病理組織学的に示すことができる。図2はワクチン接種後に死亡した患者の病理組織像であるが、茶色の部分がスパイクタンパクの存在部位である。筋肉、脳、心筋、冠動脈細胞の一部がスパイクタンパクを産生している。

 

図2 抗スパイクタンパク抗体による免疫染色

Arne Burkhart博士撮影

ヒトの免疫系は、元来、細菌やウイルスなどの異物から自分の体を守る働きがあるが、時に免疫系が正常に働かずに自分の組織を異物と見做して攻撃することで自己免疫疾患を発症する。種々の自己免疫疾患があるが、膠原病のように全身臓器の症状が見られるものと、慢性甲状腺炎のように特定の臓器のみの症状が見られる病気とがある。すでに、コロナワクチン接種後に多数の自己免疫疾患が報告されている。

コロナワクチン接種後に見られる自己免疫疾患の発症メカニズムとしてスパイクタンパクに対する抗体がヒト組織抗原と交差反応することが考えられている。すでに、コロナワクチンの接種が開始される以前に発表された論文に、抗スパイクタンパク抗体は、検討した55種類のヒト組織抗原のうち25抗原と交差反応することが示されている。

この結果から、ワクチンの接種で産生された抗スパイクタンパク抗体が、交差反応を示すヒト臓器を攻撃して自己免疫疾患を引き起こす可能性が危惧されていた。

コロナワクチンに限らずワクチン接種後に発症する自己免疫疾患は、ヒト組織抗原と交差反応する抗体によって発症すると考えられてきた。ところが、mRNAワクチンでは、肝臓、脾臓、脳、心臓などの様々な臓器を構成する細胞の表面にスパイクタンパクが表出される。

コロナワクチンが投与されると、免疫を担当するB細胞からはスパイクタンパクを認識する抗体が産生される。同時に、表面にスパイクタンパクが存在する細胞を攻撃する細胞傷害性T細胞も誘導される。このような抗体依存性あるいはT細胞依存性自己攻撃によって自己免疫疾患が発症する危険性がある(図3)。

 

図3 mRNAワクチン関連自己免疫疾患について考えられる発症機序

筆者作図

実際、スパイクタンパクを認識するT細胞によって自己免疫性肝炎が発症したことが報告されている(図4)。蛍光標識したMHCテトラマーを用いたフローサイトメトリーによって、スパイクタンパク特異的細胞傷害性T細胞を検出することが可能である。

この研究の対象となった患者では1回目のコロナワクチン接種後に肝炎を発症したが、改善が見られたので、2回目のワクチンを接種したところ再度肝機能が悪化した。ワクチンの接種が肝炎の発症に関与していることは臨床経過から強く疑われる。テトラマーを用いて、この患者の末梢血と肝臓組織中のスパイクタンパク特異的細胞傷害性T細胞が検出されたことから、スパイクタンパクを認識する自己のT細胞による攻撃で肝炎が発症したと考えられた。

 

図4 末梢血、肝臓組織からのスパイクタンパク特異的細胞傷害性T細胞の検出

J Hepatol.2022 Sep;77(3):653-659

コロナワクチンの接種後には、主に、筋肉、肝臓、リンパ節、副腎、卵巣にmRNAが蓄積する。図2にあるように抗スパイクタンパク抗体に染まる細胞は心筋にも存在する。

3月10日に公表されたコロナワクチン接種後の副反応リストによれば、これらの臓器に原因不明の炎症や機能不全が多数起きていることが報告されている(表1)。 テトラマーを用いて、これらの副反応にスパイクタンパクを標的にした細胞傷害性T細胞が関与しているかを検討することは重要と思われれる。

 

表1 mRNAワクチン接種後に見られた副反応の報告数

2023年3月10日開催第92回厚生科学審議会配布資料

mRNAワクチン技術は、コロナウイルスのみならず、今後、インフルエンザを初め他の病原体に対するワクチン更にはがん領域への適用も考えられている。上記のメカニズムによる自己免疫疾患の発症は、コロナワクチンに限らず、mRNA技術を用いたすべてのワクチンに起こりうることである。その意味でも、コロナワクチン接種後の副反応に対するテトラマーによるスパイクタンパク特異的細胞傷害性T細胞の検討は是非始めるべきであろう。



 

論文①

『新型コロナウイルス感染症ワクチン接種と自己免疫疾患の発症』

https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/62/10/62_1490-22/_article/-char/ja  

 

 

 2019年に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による最初のコロナウイルス感染症(COVID19)の症例が中国の武漢で報告されて以来、この病原体は世界中で多くの死者を出し、人々のライフスタイルに影響を与え世界経済はこれまで経験したことのない形で変化しました。 2022年12月16日現在、世界の感染者数は約6億4,800万人、死者数は約660万人に達しています(1)。 その過程で、30年前から開発が進められてきたmRNAワクチンがついに実用化され、これまでほとんど実証されていなかったウイルスベクターを用いたワクチンが普及しました。

 

これら新型ワクチンが実用化され、世界中で投与されるに伴い、さまざまな副反応が報告されています。 副反応として報告された症状のほとんどは、ワクチン接種部位の腫れや一時的な痛み、全身倦怠感、発熱、関節痛、筋肉痛、頭痛など重篤なものではありませんでした(2)。 しかし、アナフィラキシー、心膜炎、心筋炎、血栓症などの重篤な副作用も報告されています(3)。 これらのワクチンによる重篤な副反応の発生頻度は一般に低く、ワクチン接種による利益の方が副反応のデメリットを上回ると考えられているため、現在ではすべての人にワクチン接種が推奨されています。 基礎疾患にリウマチ病を有している人々は、新型コロナウイルス感染症に罹ると、重症化のリスクが高まる可能性があることが示唆されているため(4)、さまざまな国でリウマチ性疾患患者へのワクチン接種が一般的に推奨されています(5-7)。

  

 自己免疫疾患の発症との関連は、ヒトパピローマウイルス、インフルエンザ、B 型肝炎に対するワクチンで報告されています (8-10)。 SARSCoV-2 ワクチンには、これまで世界保健機関の緊急使用リストによって推奨された 9 製品があり、2022 年 12 月 12 日の時点で世界中で 130 億回分の投与が行われています (1)。 これらのワクチンの中で最も普及しているのは、mRNA ワクチンである BNT162b2 (Pfizer-BioNTech) および mRNA-1273 (Moderna) と、アデノウイルス ベクター ワクチンである ChAdOx1 nCoV-19 (AstraZeneca) および Ad26.COV2.S (Janssen) です。 これらのワクチンでは、ワクチン接種時の副反応に関するデータが蓄積されており、ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)、自己免疫性肝疾患、ギラン・バレー症候群、バセドウ病、IgA腎症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、成人発症のスティル病などの自己免疫機構の介在が疑われる有害事象が報告されています。 (11-18)。

   SARSCoV-2 に対するワクチンが自己免疫を誘導する主なメカニズムは、分子相同性、自己抗体の産生、ワクチンアジュバントによるものと考えられています (19)。 ウイルスタンパク質と組織自己抗原間の交差反応は、分子相同性による異常な自己免疫応答の発症につながる可能性があります。 自己抗体産生の例には、VITTに関する副反応である血小板第 4 因子を標的とした抗体の産生が含まれると報告されています (20)。 ワクチン中のアジュバントと mRNA はトール様受容体 (TLR) によって認識され、インフラマソーム経路を介して自己免疫を誘導する可能性があります (21)。 Aochiらは、 78 歳の日本人女性がBNT162b2 新型コロナウイルス感染症 mRNA ワクチンの 2 回目の接種から 2 週間後に免疫グロブリン G4 関連疾患 (IgG4-RD) を発症したと報告しました (22)。 彼女にはリウマチ性疾患の病歴はなく、両側の顎下領域の腫れ、膵臓の肥大、および高い血清 IgG4 レベルが見られました。 診断時に病理学的検査を行うことはできなかったが、自己免疫性膵炎の臨床診断基準およびIgG4関連疾患のACR(アメリカリウマチ学会)/EULAR(ヨーロッパリウマチ学会)分類基準に基づいて、彼女はigG4 関連疾患と診断されました(23、24)。 プレドニゾロン 30 mg/日による治療が開始され、臓器の肥大が改善されました。

次に、ワクチン接種後の反応と、TLR へのシグナル伝達によって I 型インターフェロンが過剰発現する IgG4関連疾患との間の病態機構の類似性が議論されました。 今回の症例報告以前に、SARS-CoV-2ワクチン接種後のIgG4関連疾患の新規発症症例3名と再発症例1名が報告されていました。

 

 発生頻度が低いため、自己免疫疾患と SARS-CoV-2 ワクチン接種との因果関係を証明することは困難です。 上述の IgG4関連疾患 のケースでは、ワクチン接種と IgG4関連疾患 の間の因果関係を示唆する唯一の理由は、2 つのイベント間の間隔が短かったことです。 ワクチン誘発性の副反応に関する証拠はまだ不足しており、SARS-CoV-2に対するワクチンが自己免疫疾患の新たな発症を引き起こす可能性があるのか、それとも単に一時的な偶然なのかはまだ結論が出ないままです(19)。今後、この因果関係を解明するためには、ワクチン接種後の免疫反応に関する詳細なメカニズムを理解する事とともに、疫学研究や症例報告をさらに蓄積する必要があります。

 

免疫抑制剤は原発性硬化性胆管炎の治療に効果的?

結論から言えば、免疫抑制剤の中ではアザチオプリン(通称アザニン)がPSCの治療に有効だと思われます。
このブログ記事では主にアザチオプリンタクロリムス(商品名プログラフ、グラセプター)について取り上げます。
他にもシクロスポリン(通称ネオーラル)やメトトレキサートミコフェノール酸モフェチル(通称セルセプト)などの免疫抑制剤のPSCへの有効性を調べた臨床試験があるようですが、後述する論文⑤において、試験では有効性が確認されなかったとあるので、これらについては省略します。
 
アザチオプリンの保険適用は現在の所、次の疾患に限られます。
 
 
(1) 下記の臓器移植における拒絶反応の抑制
  腎移植、肝移植、心移植、肺移植
(2) ステロイド依存性のクローン病の寛解導入及び寛解維持並びにステロイド依存性の潰瘍性大腸炎の寛解維持
(3) 治療抵抗性の下記リウマチ性疾患
  全身性血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、結節性多発動脈炎、好酸球性多発血管炎性肉
 芽腫症、高安動脈炎等)、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、混合性結合組
 織病、及び難治性リウマチ性疾患
(4) 自己免疫性肝炎
 
 
上記のように肝移植後の拒絶反応の抑制や、潰瘍性大腸炎の寛解維持自己免疫性肝炎などに対する使用には保険適用されますが、PSCそのものに対しては未だ適用外のようです。
 
 
タクロリムスの適応症は以下のものです。
 
○下記の臓器移植における拒絶反応の抑制
腎移植、肝移植、心移植、肺移植、膵移植、小腸移植
○骨髄移植における拒絶反応及び移植片対宿主病の抑制
○重症筋無力症
○関節リウマチ(既存治療で効果不十分な場合に限る)
○ループス腎炎(ステロイド剤の投与が効果不十分、又は副作用により困難な場合)
○難治性(ステロイド抵抗性、ステロイド依存性)の活動期潰瘍性大腸炎(中等症〜重症に限る)
○多発性筋炎・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎
 
 
まずアザチオプリンについてですが、後述の論文①によれば25年前からアザチオプリンの投与を受けている13人のPSC患者さんを追跡調査した所、13人中1人(8%)が診断から12.3年後に胆管がんで亡くなり、13人中4人が肝移植を受け(31%)、13人中8人(62%)の患者さんが肝移植無しで生存しておられるそうですが、肝移植までの期間の中央値は21.6年(IQR 四分位範囲 9.1-25.6年)であり、全体的な移植無し生存期間の中央値は少なくとも23.7年(IQR17.4-26.2年)と言うことなので、他の大規模な観察研究における肝移植までの期間の中央値8.1年 (範囲0.3–31.3年)[2]と6.8年 (範囲 0.25–23.4年)[3]や、オランダの移植センターに登録されている患者さんにおける移植なし生存期間の中央値である13.2年と比較して、アザチオプリンによる治療を受けているPSC患者さんは病気の進行が抑制されていると言えます。
 
 
 
また、免疫抑制剤の使用で心配になるのが発がん性です。もとよりPSCは胆管がんを併発しやすく、論文①ではPSC患者さんの最大20%で肝臓や胆道に悪性腫瘍を生じるとあり、MSDマニュアル( https://onl.sc/cAEpfUT )ではPSC患者さんの10~15%で胆管がんを生じるとあるので、やはり免疫抑制剤の発がんリスクは懸念される所です。
 
アザチオプリンの胆管がん発症リスクについて調査した研究が論文②ですが、結論として、アザチオプリンは胆管がんのリスクに有意に影響を与えなかったということです。この研究においてはアザチオプリンを投与されたグループの胆管がん発症率は3.3%であり、対してアザチオプリンを投与されなかったグループの胆管がん発症率は6.8%となっていて、むしろアザチオプリン投与を受けた患者さんの方が胆管がんの発症が少ない結果となっています。
また、この研究では胆管がんのリスク増加に関連する唯一の要因は、PSC診断時の年齢が35歳以上であることで、患者さんの性別、炎症性腸疾患の併発、あるいは自己免疫性肝炎は胆管がんのリスクに影響を与え無かったそうです。
 
そして、論文①における研究においては、25年間の追跡調査の中で、13人中2人の患者さんが、それぞれPSC診断から7.5年と24.8年後に胆管がんを発症していますが、これはアザチオプリン治療とその追跡調査を受けた患者さん全体の15%にあたり、一般的なPSC患者さんの胆管がん発症率の範囲内にあると言えるでしょう。
 
また、論文②では、アザチオプリン治療を受けたPSC患者さんの方がそうでない患者さんよりも胆管がんの発症率が低かった事や、自己免疫性肝炎の患者さんにおいて、アザチオプリン治療に対する反応が不十分な患者さんで、肝細胞がんの発症率が高くなった事、炎症性腸疾患において、アザチオプリンが炎症誘発性の発がんを妨げることによって結腸癌のリスクを低下させる可能性があることを示すデータが明らかになっている事などから、アザチオプリンの発がん性リスクよりも、炎症を抑える事で発がんを妨げる作用の方が大きい可能性を示唆していると述べていて、PSCと併発した炎症性腸疾患および/または自己免疫性肝炎の患者さんへのアザチオプリン投与を差し控えるべきではないと結論付けています。
 
 
但し、炎症性腸疾患においては、最新の研究で、チオプリン治療の結果としてリンパ増殖性疾患や非メラノーマ皮膚がんのリスクの増加が示唆されている事、全体として、炎症性腸疾患におけるアザチオプリンが固形臓器腫瘍、とりわけ肝臓がんのリスクを増加させるという説得力のある証拠は存在しないが、稀なケースではあるものの、アザチオプリンで治療された炎症性腸疾患の患者さんが肝疾患の背景を持っていないのにも関わらず肝細胞癌を発症した症例が存在する事にも留意しておかなくてはなりません。
 
 
 
続いては、タクロリムス(プログラフ、グラセプター)についてです。
論文を読んだ限り、タクロリムスによる治療はある程度の効果が期待できるものの、副作用が強く、患者さんの忍容性が低いため、現実的ではないと感じました。
 
タクロリムスに関する研究は、予備試験(論文③)とそれに続く臨床研究(論文④)でかなり結果が異なっています。
予備試験の結果はかなり有望な物で、360日間の治療で血清ビリルビン、ALP、ALT、ASTが大幅に減少し、血清尿素窒素とクレアチニンレベルに対する有害な影響は全く観察されなかったとあります。
 
しかし、この結果を踏まえて行われた臨床研究では、参加した16人の患者さんのうち、13人で薬による有害事象が観察されたそうです。その13人のうち5人が薬物関連の有害事象のため中断し、2人は登録の後、薬を服用できず、1人は事故で亡くなったとの事。臨床研究を完了出来たのは16人の参加者中、50%にあたる8人だけだったそうです。
肝臓の検査値に関しても、血清ALPの中央値においては有意な低下が観察されましたが(903対483)、ASTの中央値は、統計的には有意であるが、臨床的には有意ではない低下(88対78)しか見られず、総ビリルビンあるいはアルブミンレベルにおいては統計的、臨床的に有意な低下は観察されなかったとの事です。
 
これらの事から、タクロリムスがPSC患者さんにおける血清ALPを改善することは実証されましたが、患者さんの忍容性が低いため、得られる効果と被るリスクを考慮すると、タクロリムスの臨床的な利点は限定的であると考えられます。
 
更に、以下は、北海道大学大学院医学研究院のサイトに記載されている免疫抑制剤の副作用が纏められた表ですが、これを見ると、やはりタクロリムスはシクロスポリンを除く他の免疫抑制剤と比べて副作用が多く、長期に渡って服用するには患者さんの負担が大きすぎるように思われます。

 
 
論文⑤「21世紀における原発性硬化性胆管炎の治療のレビュー」においては、アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムス、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチルなどの免疫抑制剤のPSCに対する治療効果について、これまでの研究を基に簡単に纏められています。
やはり、アザチオプリンを投与された患者さんは肝臓組織学、生化学的な改善が見られた事、タクロリムスは副作用が大きいために臨床で用いる利点が限られる事、タクロリムスに構造が似たmTOR阻害剤のシロリムスとエベロリムスはラットにおいて肝臓の線維化を改善し、炎症を低減した事から、これらの薬剤に対する更なる研究が必要とされる事、メトトレキサート、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルに関しては、PSC治療での使用を支持する程の有意な効果が見られなかった事が述べられていました。
 
 
また、論文⑤では、免疫抑制剤だけではなく、抗生物質によるPSC治療の有効性にも触れられていて、進行したPSCの患者さんは、細菌性胆管炎を繰り返し発症していて、その事が病気の進行を加速させた可能性があるという事、現在のガイドラインは、再発性の細菌性胆管炎の患者さんと胆管への介入を受けている患者さんにおいては予防的な抗生物質の使用を推奨している事にも触れられていました。
 
抗生物質によるPSC治療に関するいくつかの試験において、ミノサイクリンは、ALP値に改善が見られたが、Mayoリスクスコアにおいては有意な改善は見られなかった事、バンコマイシンは、肝臓生化学、炎症マーカー、ALP値、Mayoリスクスコアにおいて有意な改善が見られ、メトロニダゾールはALP値(UCDA併用時)、Mayoリスクスコア、搔痒症において有意な改善が見られたと言う事でした。なので、特に、腸内微生物叢がPSCの病態に影響を与えている事を示唆する証拠がますます増加して来ている現状を考慮すれば、抗生物質による治療が有望に思われるけれども、やはりここでも抗生物質の使用による耐性菌の進化に対する懸念が示されていました。そして、抗生物質を用いる事なく、腸内微生物叢を変化させる事が出来る糞便移植や胆汁移植がPSCにおける将来的な治療法として検討されるべきであるかもしれないと締めくくられていました。
 

 
論文①
 
以下は
Long-term outcome in PSC patients receiving azathioprine: Does immunosuppression have a positive effect on survival?
 
という論文の概要を日本語訳したものです。
 
 
アザチオプリンを投与されたPSC患者の長期的転帰:
免疫抑制は生存率に有益な影響を与えるか?(2020年8月27日公開)
 
編集者へ
原発性硬化性胆管炎(PSC)は免疫介在性疾患と考えられています。
その自然な経過は、肝内および/または肝外胆管の進行性狭窄と、それに続く肝硬変への進行[1]、そして患者の最大20%での胆管がん(CCA)を主とした肝胆道系の悪性腫瘍の発症のリスクが特徴です[2]大規模な観察研究では全生存率は、9.6年[3]から21.3年[2]で、オランダの移植センターに登録されている患者における移植なし生存期間の中央値は13.2年と報告されています(表1)[2]現在までに、疾患の進行過程を変える医学療法は確立されていません。ウルソデオキシコール酸(UCDA)がしばしば処方されますが、生化学的なパラメータの改善に繋がっているにも関わらず、転帰に対する有益な影響は示されていません[4]。この疾患の自己免疫的要素を考慮して、幾つかの免疫抑制剤が治療の選択肢として研究されてきましたが、結果は相反しています[5][6]
 
表1.
アザチオプリンによる治療を受けている13人のPSC患者の特徴と結果のパラメータ、および公開された文献との比較
示されている数値とパーセンテージは平均値±標準偏差と対応するIQR(四分位範囲)と範囲を伴う中央値である
 
*[3]肝胆管悪性腫瘍が含まれる: 胆管がん36人 胆嚢がん2人 肝細胞癌1人
**[10]肝膵胆管悪性腫瘍が含まれる:胆管がん559人 胆嚢がん58人 肝細胞癌1人 膵臓がん10人
 
 
プレドニゾロンおよびウルソデオキシコール酸と併用したアザチオプリンを評価する最初のパイロットスタディ(予備研究)[5]は25年前に私たちによって行われました。最初の15人の患者さんのうち13人はアザチオプリンによく耐え、この併用療法を続けました。その結果は全体的に有望なもので、すべての患者さんで生化学的なパラメータが急速に低下し、追跡肝生検では10人中6人の患者さんで組織学的な改善が見られました。しかしながら、中央値41か月という観察期間は転帰に与える影響を調査するには短すぎました。それゆえ、ここで、私たちのパイロットスタディに参加し、アザチオプリンによる治療をつづけたこれら13人の患者さんの長期的な追跡データを報告します。
 
PSCの診断日を開始点として定義し、PSC関連死または肝移植を複合エンドポイントとして定義しました[2]。患者さんの医療記録が精査され、2020年5月に電話相談によって追跡調査が行われました。表1に患者さんの特徴と転帰がまとめられています。
 
多くの患者さんは男性で(8人/13人 62%)、PSC診断時の年齢の中央値は32歳(IQR23.6-47.1)でした。最初の研究の終了以来、1人の患者さん(8%)が亡くなり、13人中4人の患者さん(31%)が肝移植を受け、13人中8人(62%)の患者さんが肝移植無しで生存しており、その結果、分析時の肝移植までの期間の中央値は21.6年(IQR9.1-25.6年)であり、全体的な移植無し生存期間の中央値は少なくとも23.7年(IQR17.4-26.2年)でした。2人の患者さん(15%)が、それそれ、7.5年と24.8年後に胆管がんを発症しました。これら2人の患者さんのうち1人は最初のPSCの診断から12.3年後に胆管がんで亡くなり、もう一方の患者さんは、緩和ケアを受けて生存しています。まだ生存していて移植を受けていない8人の患者さんのうち、1人の患者さんとは連絡を取ることが出来ませんでしたが、カルテの確認で彼は2006年の最後の来院時には健在であったことが明らかになっており、分析はこの患者さんに対してはこの時までに限られます。他の6人の患者さんは良好な臨床状態にあり、今日も1日につき50-150mgの用量のアザチオプリンを投与されており、2人の患者さんは追加のプレドニゾロン治療(5mg)を受けています。肝硬変への進行を示した患者さんは1名のみで、現在、末期肝疾患スコア7点のモデルで肝移植の対象になっています。
 
ここでは、私達の知る限り、アザチオプリンをベースとした免疫抑制剤併用療法を受けたPSC患者さんの最も長期にわたる臨床的追跡調査を報告します。この患者群における移植無し生存期間の中央値は、同様の3次医療機関[2][3](ブログ主注釈: 高度に専門的あるいは先進的医療を提供する施設)において報告された患者の生存期間を上回っており、アザチオプリンの使用がPSC患者さんの死亡率の低下[7]と自己免疫性肝炎炎(AIH)とPSCのオーバーラップ症候群の患者さんの転帰の改善に関与する事を示す最近の研究と一致しています。全体的な移植無し生存期間の延長とは別に、文献(表1)で述べられている移植までの期間の中央値6.8年[3]や8.1年[2]と比較して私たちの患者群における4人の移植患者さんは最初の診断の後、中央値21.6年で肝移植を受けたので、私たちのデータは肝移植までの期間の中央値を延長することも示唆しています。
 
具体的には調査されていませんが、アザチオプリンは忍容性が高く、今日でもこれらの患者さんの殆どで使用されています。加えて、この患者サンプルは一般的な結論を導き出すには小さすぎるとはいうものの、アザチオプリン治療は胆管がんの割合の増加には繋がりませんでした。胆管がんはこの患者群では15%で発症しましたが、これは文献[2]で報告された約20%の範囲の内ですし、PSC患者さんにおける胆管がんの発症リスクについてのこれまでの研究[9]に一致します。
 
要約すれば、私たちはアザチオプリンを投与されているPSC患者さんからの有望な長期に渡る追跡調査のデータを報告します。アザチオプリンは自己免疫性肝炎の治療に非常に効果的であり、PSC患者さんにおけるインフリキシマブやベドリズマブを含む新たな生物学的治療からの有効性のシグナルの欠如を考慮すれば、おそらく、PSC患者さん、とりわけ、目立った炎症性疾患の活動を伴う患者さんにおいては、このよく知られた薬の使用が考慮されるべきでしょう。
 
 
参考文献
[1]  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29452711/
[2]  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23775876/
[3]  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17037993/
[4]  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16285948/
[5]      https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10610645/
[6]      https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17403184/
[7]  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30448601/
[8]      https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18769363/
[9]      https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27521513/
[10]   https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28274849/
 
 
論文②
 
以下は
No Evidence That Azathioprine Increases Risk of Cholangiocarcinoma in Patients With Primary Sclerosing Cholangitis

 

 

 
という論文の概要を日本語訳したものです。
 
アザチオプリンがPSC患者さんにおける胆管がんのリスクを増加させるという証拠はない
2016年8月10日公開
 
概要
 
背景と目的
原発性硬化性胆管炎(PSC)の患者さんは胆管がん(CCA)発祥のリスクが高くなります。
PSCの患者さんは炎症性腸疾患(IBD)または自己免疫性肝炎(AIH)の特徴を抱える可能性があるため、アザチオプリンで治療されます。
アザチオプリンは悪性腫瘍のリスクの増加と関連があるため、私たちはアザチオプリンの使用がPSC患者さんにおける胆管がんのリスクに影響を与えるかどうかを調査しました。
 
方法
私たちはドイツとノルウェーにある3つの大規模3次医療センターから集められたデータを用いて特定のPSC患者さんの後ろ向き研究を行いました。私たちは638人の患者さん(70%が男性;5900患者年の追跡評価)からのデータを分析しました;91人の患者さんがアザチオプリン治療を受けていました(最初の摂取から90日で有効とみなします)。調査のエンドポイントと競合するリスクがある場合はリスク分析はCox比例ハザードモデル(*)を用いて行われました。
 
(*)生存時間分析のためのノンパラメトリックな手法の1つで、比例ハザードモデルとも言う。生存時間データのほかに年齢や性別などの共変量を用いることで、共変量が生存時間に与える影響を調べることができる。
 
結果
アザチオプリン治療を受けた患者さんのうち、3.3%が胆管がんを発症したのに対し、アザチオプリン治療を受けなかった患者さんの6.8%が胆管がんを発症しました。しかし、アザチオプリンは胆管がんのリスクに有意に影響を与えませんでした(ハザード比0.96; 95%信頼区間、0.29-3.13; p=0.94)。胆管がんのリスク増加に関連する唯一の要因は,PSC診断時の年齢が35歳以上であることでした(ハザード比3.87; 95%信頼区間、1.96-7.67; p<.01)。患者さんの性別、炎症性腸疾患の併発、あるいは自己免疫性肝炎は胆管がんのリスクに影響を与えませんでした。全体として、胆管がんの10年累積発生率は4.6%で15年累積発生率は7.7%でした。
 
結論
ヨーロッパの三次センターにおけるPSC患者さんの後ろ向き分析ではアザチオプリンが胆管がんのリスクに有意に影響を与える証拠は見つかりませんでした。それゆえ、アザチオプリンはPSCと併発した炎症性腸疾患および/または自己免疫性肝炎の患者さんへの投与を差し控えるべきではありません。
 
 
以下は、この論文のDiscussionの章の後半部分とそれを日本語訳したものです。
 
(前略)
These data argue for precursor lesions of CCA to potentially emerge from biliary inflammation. Whether anti-inflammatory treatment impacts the prevalence of dysplasia and CCA in PSC has not been elucidated yet, however, and should best be addressed in a cohort with a regular endoscopic surveillance protocol. This approach would prevent an under-reporting of CCAs in patients undergoing liver transplantation because of high-grade dysplasia. Still, based on the available literature it is conceivable that the relatively low CCA incidence of the patients who received azathioprine may to some extent be a result of its anti-inflammatory effect.
 
There are no data on the effect of azathioprine on CCA development in other autoimmune liver diseases. In AIH, however, 1 recent study of 180 patients with AIH found no significant association between azathioprine treatment and HCC. In this study, however, the incidence of HCC was significantly higher when patients had an insufficient treatment response.30 Albeit limited by only 6 cases of HCC, this indicates that in AIH the carcinogenic potential of thiopurines may be outweighed by their anti-inflammatory effect.
 
In IBD, most recent studies have suggested a higher risk of lymphoproliferative disorders and nonmelanoma skin cancer as a result of thiopurine treatment.18,  25,  26,  27,  31 Despite some unusual cases of IBD patients treated with azathioprine without having a background of liver disease and still developing HCC,32,  33 to date there is no convincing evidence that azathioprine in IBD enhances the risk of solid-organ tumors, particularly liver cancer.18 However, data have emerged that show that in IBD azathioprine may lower the risk of colon cancer by inhibiting inflammation-induced carcinogenesis.34,  35
 
In conclusion, based on this multicenter cohort including a large number of patients with a long observation period, we found no evidence that azathioprine affects the risk of CCA development in patients with PSC. Therefore, in patients with PSC and concomitant IBD and/or AIH, treatment with azathioprine should not be withheld. Furthermore, the relatively low incidence of CCA in PSC patients treated with azathioprine should be re-evaluated in a larger multicentric cohort to assess the effect of anti-inflammatory treatment on CCA development.
 
 
これらのデータは胆管がんの前駆病変が胆管の炎症から出現する可能性があることを主張しています。抗炎症治療がPSCにおける異形成と胆管がんの有病率に影響を与えるかどうかはまだ解明されていませんが、定期的な内視鏡的観察プロトコルをともなう患者群において取り組まれるのが最良であるでしょう。このようなアプローチは、高度異形成のために肝移植を受ける患者さんにおける胆管がんの過少報告を防ぐでしょう。それでも、入手可能な文献に基づくと、アザチオプリンを投与されている患者さんの胆管がんの罹患率が比較的低いのは、ある程度、アザチオプリンの抗炎症効果の結果と考えられるでしょう。
 
他の自己免疫性肝疾患における胆管がんの発症に対するアザチオプリンの影響についてのデータはありません。しかしながら、自己免疫性肝炎においては、自己免疫性肝炎を患う180人の患者さんを対象とした最近の研究ではアザチオプリンと肝細胞癌の間に有意な関連性は見つかりませんでした。しかし、この研究では患者さんの治療反応が不十分な時に肝細胞癌の罹患率が有意に高くなりました。たった6つの肝細胞癌の症例に限られるとはいえ、このことは、自己免疫性肝炎においては、チオプリンの発がん性の可能性よりも抗炎症作用の方が優っている可能性があることを示唆しています。
 
炎症性腸疾患においては、最新の研究で、チオプリン治療の結果としてリンパ増殖性疾患や非メラノーマ皮膚がんのリスクの増加が示唆されています。アザチオプリンで治療された炎症性腸疾患の患者さんが肝疾患の背景を持っていないのに肝細胞癌を発症したという珍しいケースがあるにも関わらず、今日まで、炎症性腸疾患におけるアザチオプリンが固形臓器腫瘍、とりわけ肝臓がんのリスクを増加させるという説得力のある証拠は存在しません。しかし、炎症性腸疾患において、アザチオプリンが炎症誘発性の発がんを妨げることによって結腸癌のリスクを低下させる可能性があることを示すデータが明らかになっています。
 
結論として、この長い観察期間を伴う、大規模な人数の患者さんを含む複数施設のコホートに基づいて、アザチオプリンがPSC患者さんにおける胆管がんの発症リスクに影響を与えるという証拠は見つかりませんでした。それゆえ、PSCと併発した炎症性腸疾患および/または自己免疫性肝炎の患者さんにおいてはアザチオプリンによる治療は差し控えるべきではありません。さらに、アザチオプリンで治療されているPSC患者さんにおける胆管がんの罹患率が比較的低い事は、胆管がん発症に対する抗炎症治療の効果を評価するために、より大きな多中心コホートで再評価される必要があります。
 
 
論文③
 
以下は
Tacrolimus (FK 506), a treatment for primary sclerosing cholangitis: results of an open-label preliminary trial

 

 

 
の概要を日本語訳したものです。
 
タクロリムス(FK506),原発性硬化性胆管炎治療:非盲検予備試験の結果(1995年3月発行)
 
原発性硬化性胆管炎(PSC)は進行性の胆汁うっ滞と続発性の胆汁性肝硬変の発症を特徴とする肝臓の慢性炎症性疾患です。抗炎症薬(ステロイド)や免疫抑制剤(メトトレキサート)や抗線維化剤(コルヒチン)、胆汁分泌促進薬(ウルソデオキシコール酸)が幾つかの小規模なシリーズにおいて使用されてきましたが、この病気に対する広く認知された治療は存在しません。本研究では、新しく、強力な免疫抑制性のマクロライド系抗生物質であるタクロリムス(FK506)が10人のPSC患者さんの治療に使用されました。それぞれの被検者はFK506治療の開始の前に肝生検、肝内外の胆管の可視化を伴うERCP、血液学的、血清学的および生化学的臨床試験のパネルを受けました。FK 506は12時間間隔で経口投与され、連続的な血漿FK506トラフ濃度によってモニタリングされました。360日間の治療の後、血清ビリルビンレベルの中央値は75%減少し、血清アルカリフォスファターゼは70%減少しました。さらに、血清ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)とAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)はそれぞれ80%と86%減少しました。FK506治療の結果として尿素窒素とクレアチニンの血清レベルに変化は起こりませんでした。これらのデータは次の事を立証しています。
1)FK506はPSCの治療に使用可能である。
2)PSC患者さんのFK506に対する反応は素早い。
3)血清尿素窒素とクレアチニンレベルに対する有害な影響は全く観察されなかった。
その強力な免疫抑制作用により、FK506はPSC患者さんの治療にとって重要な薬剤となるであろうことが期待されます。
 
論文④
 
以下は
Tacrolimus is poorly tolerated by patients with primary sclerosing cholangitis

 

 
を日本語訳したものです。
 
タクロリムスは原発性硬化性胆管炎患者さんには忍容性が低い(2007年8月公開)
 
Talwalkerら(2007)原発性硬化性胆管炎の治療のためのタクロリムス
 
 
パイロット研究の有望な結果を踏まえて、TalwalkerらはタクロリムスがPSC患者さんに本当に安全で有効であるのかを調査しました。血清アルカリフォスファターゼのレベルが正常な上限値の少なくとも1.5倍である16人のPSC患者さんがこの非盲検第Ⅱ相試験に登録されました。参加者は1日に2回0.05mg/kgのタクロリムス(目標全血濃度3-7ng/ml)を一年間投与されました。タクロリムスの用量は9人の患者さんにおいて、彼らの全血タクロリムス濃度、血清クレアニチンレベル、あるいは報告された薬物関連有害事象に基づいて少なくとも一度は調整されました。
 
薬物関連の有害事象が13人の患者さんで観察されました。8人の患者さんが治療を完了出来ませんでした。:5人が薬物関連の有害事象のため中断し、2人は登録の後、薬を服用できず、1人は事故で亡くなりました。血清アルカリフォスファターゼレベルの中央値の統計的にも臨床的にも有意な低下(903対483、P=0.0001)が治療を完了した8人の患者さんで観察され、また、統計的には有意であるが、臨床的には有意ではない、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼレベルの中央値の低下(88対78、P=0.002)が観察されました。総ビリルビンあるいはアルブミンレベルにおいては統計的、臨床的に有意な低下は観察されませんでした。
 
これらの所見は、タクロリムスがPSC 患者さんにおける血清アルカリフォスファターゼレベルを改善することを裏付けているけれども、患者さんの忍容性が低いため、タクロリムスの臨床的な利点は限定的であるとと著者らは示唆しています。
 
論文⑤
 
以下は
A review of the medical treatment of primary sclerosing cholangitis in the 21st century

 

 

 
の免疫抑制剤と抗生物質の章を一部抜粋したものの日本語訳です。
 
21世紀における原発性硬化性胆管炎の治療のレビュー(2016年1月)
 
アザチオプリン
 
アザチオプリンは炎症性腸疾患における寛解の維持のために広く使用されているステロイド節約の免疫抑制剤でありプリン代謝拮抗薬です。しかしながら、PSCにおけるその有効性の研究は限られていました。アザチオプリンはRAC-1細胞シグナル伝達を調節することによって、リボヌクレオチド合成を阻害し、T細胞をアポトーシス(ブログ主注釈: 細胞の自然死)に導きます。PSC におけるアザチオプリン使用のいくつかの症例が報告されています。;2人の患者さんが治療によって改善し、1人の患者さんが肝膿瘍によって亡くなりました。アザチオプリン(1-1.5mg/kg/日)とプレドニゾロン(1mg/kg/日)とウルソデオキシコール酸(500-750mg/日)を組み合わせた治療を受けた15人のPSC患者さんの症例シリーズでは肝臓組織学、生化学において有意な改善が観察されました。残念ながら、PSCと炎症性腸疾患の併発がありふれていることは、多くのPSC患者さんがPSCの診断と進行時にアザチオプリンを服用している事を意味し、この事は、アザチオプリンの更なる評価に対する熱意の欠如を説明するかもしれません。しかし、PSCにおいてチオプリン代謝物測定値の使用を行った試験も不足しています。
 
シクロスポリン
 
シクロスポリンはT細胞の細胞質のシクロフィリンに結合してカルシニューリン(ブログ主注釈: 細胞内シグナル伝達に関与するプロテインフォスファターゼの一種)を阻害し、続いてインターロイキン2の転写を阻害します。この事は、T細胞の応答を阻害する一方で、制御性T細胞の生成をも制限する可能性があります。24か月の治療の後、シクロスポリンは肝臓の組織学的変化の進行を防止しました。:偽薬で治療された患者さん10人のうち9人が組織学的な進行を示したのに対し、シクロスポリンで治療された患者さんは20人のうち11人が組織学的な進行を示しました(P<0.05)。しかしながら、症状や肝臓生化学、あるいは疾患の進行に対する影響が不足していたため、シクロスポリンはPSCの治療には効果がないという結論に至りました。シクロスポリンは、さらに、35人の潰瘍性大腸炎を併発した肝硬変前期のPSC患者さんを対象とした二重盲検ランダム化比較試験で評価されました。PSC-UC患者さんは、症候的な腸疾患においては改善を経験した一方で、この試験は、主として、潰瘍性大腸炎に対する影響を立証するためのものであり、この治療によってはPSCが関連した評価項目に違いは観察されませんでした。
 
 
タクロリムス
10人のPSC患者さんを対象としたタクロリムスの予備的な非盲検試験が肝臓生化学の有意な改善を実証しました。この効果はタクロリムス(0.05mg/kg/日)で治療された16人のPSC患者さんを対象とした非盲検第Ⅱ相研究において確認されました。しかしながら、患者さんのうち50%しか1年の治療を完了できず、31%が薬物関連の有害事象のためにこの試験を辞退しました。さらに直腸結腸切除術を受けた患者さんが多数含まれることは、胃腸に対する副作用の頻度がより大きいことを説明しているかもしれません。研究は、この患者集団において臨床的な利点は限定的であり、タクロリムスは忍容性が低いと結論付けました。シロリムスとエベロリムスはラパマイシン標的タンパク質(mTOR)の阻害剤であり、最近の証拠はこれらのmTOR阻害剤は胆管結紮(血管を縛ること)ラットにおいて肝臓の繊維化を改善し、炎症を低減することを示しています。これらはPSCおよび胆管がんの潜在的な治療標的となる可能性があります。それゆえ、これらの薬剤を評価するためにさらなる研究が必要とされています。
 
 
 
メトトレキサート
メトトレキサートはプリン代謝に関与する酵素を標的とするジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤であり、T細胞の活性と接着分子の発現を抑制し、抗炎症特性をもたらします。0.2/mg/kg/週のメトトレキサートを経口投与する予備試験では肝臓生化学において統計的に有意な改善を示しました。1年で9人中6人(66%)が組織学的な改善を示し、再度胆管造影を受けた6人中3人(50%)が改善を示しました。対照的に、24人のPSC患者さんに経口メトトレキサートを投与する前向きプラセボ対象ランダム化比較試験では、2年の治療の後、肝臓組織学、胆管造影の所見、あるいは肝臓生化学において変化は示されませんでした。しかしながら、治療群の58%が肝硬変を発症したのに対して、プラセボ(偽薬)を投与された患者群では42%しか肝硬変を発症しなかったことは注目されるべきであり、このことはこの試験において観察されたメトトレキサートの有効性の欠如を明らかにしています。
 
 
ミコフェノール酸
ミコフェノール酸モフェチル(MMF)は固形臓器移植において第二選択薬としてアザチオプリンに大体的に取って代わった強力な免疫抑制剤です。MMFは新たなプリン合成を阻害することによってBリンパ球およびTリンパ球の増殖を減衰させます。
安全性と有効性を確認することを目的として、30人のPSC患者さんに1-3gのMMFを投与する予備研究;
77%が1年の治療を完了し、33%が副作用を経験したが、服用量を減らすことで解消しました。血清ALPにおいて、有意ではあるが、臨床的にはわずかな減少が観察されましたが、パイロット研究はPSCにおけるMMFの単独使用を支持しませんでした。これらの結果はMMF(1g/1日2回)とウルソデオキシコール酸(13-15mg/kg/日)の併用(12人)とウルソデオキシコール酸単独(13人)を比較する二年間のランダム化比較試験によって裏付けられました。
サンプルサイズが小さいこと、非盲検であること、そして高い脱落率が第二種過誤(ブログ主注釈:βエラー;例えば、薬効があるのに無いと判定されるエラー)につながった可能性があるが、この試験からの結果はPSCにおけるMMFとの併用療法を支持するものではありませんでした。
 
 
 
抗生物質
PSC治療における抗生物質の潜在的な役割は、当初、小腸内の細菌の異常増殖が胆管の狭窄と門脈炎症を引き起こすラットモデルにおける実験的な証拠によって導かれました。重要なのは、進行したPSCの患者さんは、細菌性胆管炎を繰り返し発症していて、その事が病気の進行を加速させた可能性があるという事です。内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)と摘出された肝臓から得られた胆汁液の研究は、胆管への介入を多数受けた患者さんとERCP未経験の患者さんのうち25%の両方において広範囲の細菌と菌類を示しました。したがって、現在のガイドラインは、再発性の細菌性胆管炎の患者さんと胆管への介入を受けている患者さんにおいては予防的な抗生物質の使用を推奨しています。
 
 
 
PSCにおける抗生物質に関するいくつかの小規模な試験がありました。16人の患者さんを対象とした、抗アポトーシスおよび抗炎症特性をもつミノサイクリンの一年間の予備研究では、ALPに有意な改善が観察されました(p<0.05)。しかしながら、Mayoリスクスコアにおける改善は統計学的に有意ではありませんでした。80人のPSC患者さんを含む最大規模の抗生物質の試験が三年間のランダム化比較試験においてウルソデオキシコール酸単独に対するメトロニダゾールとウルソデオキシコール酸の有効性を評価しました。血清ALPとMayoリスクスコアにおいて有意な減少が観察されましたが、肝臓組織学と胆管造影の所見における改善は統計学的に有意ではありませんでした。PSC-炎症性腸疾患を患う14人の小児における経口バンコマイシンの長期治療は、とくに肝硬変がない場合に、肝臓生化学と炎症マーカーと症状を有意に改善しました。更に最近、12週間、一日に4回の125mgあるいは250mgのバンコマイシンか一日に3回のメトロニダゾールを投与するように無作為に割り当てられた35人のPSC患者さんを対象とした小規模なランダム化比較試験がいくらかの有効性を実証しました。ALP正常化の主要な評価項目は低用量バンコマイシン群と高用量のバンコマイシン群の両方で達成されました。Mayoリスクスコアは低用量バンコマイシン群とメトロニダゾール群の両方で有意に低下し、高用量メトロニダゾール群において掻痒症が有意に減少しました。この有望なデータが、PSCにおける肝臓生化学を改善する上でのバンコマイシンの有効性を確認するためのより大規模な臨床試験を促進し、それは現在進行中です( https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01802073 ブログ主注釈:リンク先の論文を読むと、この試験は既に大部分完了しており、小児の患者さんの殆どと大人の患者さんの半数以上でALTとγ-GTP、MRCP所見における改善が見られたというポジティブな結果になっていました )。それゆえ、とりわけ、PSCにおける腸内微生物叢の役割に関する証拠の増加を考慮すると、抗生物質治療は有望に思われるけれども、耐性の進化に対する懸念は依然として臨床医の重要な懸念です。微生物叢を変化させることができる糞便移植や胆汁移植を伴う将来的な治療法がPSCにおける重要な検討事項かもしれません。

抗生物質バンコマイシンによるPSCの治療

以前、慶應義塾大学の研究で

PSCの原因菌の一つが腸内細菌のクレブシエラ菌であり、クレブシエラ菌を標的としたバクテリオファージ療法の開発が進められているという記事を紹介しましたが

 

 

 
 
 
ブログ主は菌が原因なら抗生物質を使ったらダメなのか?と疑問に思いました。その答えとして、記事内では「耐性菌が生まれて院内感染を引き起こす恐れがあるから」という理由が書いてありました。
 
 
耐性菌というのはどの位の確率で生まれてしまうものなのか分からなかったので、文献を探して見たところ、次のような論文が見つかりました。

 

 

 
「How frequent are vancomycin-resistant enterococci in patients with primary sclerosing cholangitis and ulcerative colitis treated with oral vancomycin?(バンコマイシン経口投与による治療を受けた原発性硬化性胆管炎および潰瘍性大腸炎患者におけるバンコマイシン耐性腸球菌の発生頻度は?)」
 

概要

 
原発性硬化性胆管炎 (PSC) の患者では、経口バンコマイシン (OV) による抗菌療法が、肝疾患の進行を防ぎ、付随する潰瘍性大腸炎 (UC) を制御するためにますます使用されています。しかし、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の発症リスクに関する懸念があります。したがって、PSC-UC患者におけるVREの発生率を究明することを目的としました。(以下略: これ以降の内容についてはgoogle chromeの翻訳機能の使用をお願いしますm(_ _)m 翻訳機能の使い方に関してはこちらの記事から↓

 

 

 

)

 
 
論文によると、研究に参加した7人のPSC-UCの患者さんは少なくとも 6 か月間 バンコマイシンを経口投与され、(範囲 9 ~ 31 か月、平均 32.1 か月つまり累積バンコマイシン暴露 225 か月)一人もバンコマイシン耐性腸球菌が発生したり、有害事象を経験した人はいなかったそうです。
また、患者さん全員が潰瘍性大腸炎の臨床的寛解に至ったそうです。
 
論文内で引用されている別の論文によると

 

 

 
「腸球菌のバンコマイシン耐性獲得には複数の遺伝子が必要であり、腸管内の感受性腸球菌の変異によってバンコマイシン耐性腸球菌コロニーの獲得が起こることはない。したがって、経口バンコマイシンによる治療が直接バンコマイシン耐性腸球菌を引き起こすわけではない。(しかし、経口バンコマイシンが及ぼす選択圧(淘汰圧)によって、外部から獲得したバンコマイシン耐性腸球菌の集団が増加しやすくなる可能性はある。)」との事。
 
 
この論文における研究では
 
「26単位の経口バンコマイシンが22人の患者さんに投与され、治療終了後に20人の患者さんがバンコマイシン耐性腸球菌の定着状態を診断されたが、中央値10日(幅、3日〜58日)の治療期間と中央値6500mg(幅、1250mg〜29000mg)の投与量を伴う、中央値18日間(幅9日〜39日)の追跡期間の間、それらの患者さんのうち誰もバンコマイシン耐性腸球菌培養陽性にならなかった。」という結果が報告されています。
 
 
また、別の論文では、オーストラリアのクイーンズランド小児病院の
 
において、小児患者群を対象とした研究でも、バンコマイシンを平均 8 か月以上投与された 17 人の 小児のPSC-UC 患者のうち、バンコマイシン耐性腸球菌を発症した患者はいなかったそうです。

 

 

 

 
 
論文は、この研究は規模が小さい後ろ向き研究(過去に遡って対象者の情報を集める研究)であるため、前向きで長期的なランダム化比較試験によって、薬の効きやすい患者さんの特徴や投与量、製剤設計、期間、そして炎症性腸疾患を伴う、または伴わないPSC患者さんに対する経口バンコマイシンの長期的な影響が究明される必要があるという内容で締めくくられていました。
 
残念ながら日本ではバンコマイシンの適応症としてPSCや潰瘍性大腸炎は認められておらず、保険診療上、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)腸炎、偽膜性大腸炎、造血幹細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植)時の消化管内殺菌―以外に対するバンコマイシンの投与は、原則として認めないそうですが(*注1)バンコマイシンにはPSCの症状や進行を改善する効果がある事を示唆する沢山の研究結果が存在するので、慶應義塾大学のバクテリオファージ治療が実用化されるまでの間で良いので、治験協力などの名目でも何でも良いから、患者さんにバンコマイシン投与という治療の選択肢を増やしてあげて欲しいです。
 
(*注1)

 

 

 
 
 
論文の中ではDiscussionのチャプターで「PSC 患者さんにおいて、抗菌薬治療による胃腸内微生物叢への標的調節が疾患の経過を変え 、進行を遅らせるか、さらには停止させるという証拠が蓄積されています。(中略)いくつかの研究で、経口バンコマイシン が PSC と関連する炎症性腸疾患の両方の治療に有効であることが示されています。(*注2)」とあります。
 
 
 
(*注2)
 
「炎症性腸疾患の有無に関わらない、原発性硬化性胆管炎における抗生物質治療の効果:系統的レビューとメタ分析」

 

 

 
「経口バンコマイシン:炎症性腸疾患の小児における原発性硬化性胆管炎の治療」
 

 

 

 
「潰瘍性大腸炎の肝臓; テトラサイクリンによる胆管周囲炎の治療」

 

 

 
 
また別の論文では肝移植後再発したPSCに対するバンコマイシン投与の効果について報告されています。
 
同所性肝移植を受けた男性が肝移植の4年後に再発PSCの診断を下され、ウルソデオキシコール酸の服用をはじめたが改善が見られず、肝機能検査値が次第に乱れ、彼は 2015 年 6 月にバンコマイシン 250 mg を 1 日 2 回経口投与する治療試験を受けました。すると彼の肝機能検査値 は開始から 2 か月以内に完全に正常化したそうです。
 
ただし、彼の肝内管の狭窄と数珠状の状態は安定してはいるが、不変で胆道解剖学的には改善は見られなかったそうです。
なので、進行を止めることはできても、一旦進行してしまった狭窄を回復するまでの効果はバンコマイシンには無いのかもしれません。
 
論文著者は、今回の研究で胆管の狭窄に改善は無くとも、バンコマイシン投与が肝臓生化学の完全な正常化をもたらした事から、PSC で見られる生化学的機能障害が、主に胆道系の狭窄に起因する胆汁の流れの障害によるものではないことを示唆してると述べていました。
 
「肝移植後の再発原発性硬化性胆管炎における経口バンコマイシンの有効性」

 

 

 

 
 
また、別の論文ですが、14 歳で中程度の汎結腸性潰瘍性大腸炎 (UC) と診断され、15 歳で従来の治療法に反応しない小管 PSC と診断された 23 歳の女性患者が抗生物質の経口バンコマイシン(OVT)による単剤療法を開始し、結腸粘膜の治癒とともに肝酵素の正常化と潰瘍性大腸炎の症状の解消を達成したそうです。これらの改善は 8 年間持続していて結腸異形成、肝線維症または肝不全、胆管狭窄、または癌は無かったそうです。そして、注目すべきことに、患者の反応は経口バンコマイシンカプセルのブランドと用量に依存していたそうです。

 

 

 
 
同じ薬でもブランドによって効果が異なるのは心配ですが、適切な製剤設計や投与量の解明も含めて日本でもPSC患者さんに対するバンコマイシン投与の研究が進められる事を願います。

慶応大学が原発性硬化性胆管炎の新薬を開発中。PSCは感染症だった?

https://www.asahi.com/articles/ASQ314QKKQ2XULBJ00L.html

以前、慶応大学が行なった研究でPSCの原因のひとつと思われる腸内細菌が発見されたという報告の続報に当たるような記事内容です。
↓以前の記事
今回の記事には以下の様な事が書かれていました。
・クレブシエラ菌という腸内細菌が腸間膜リンパ節に移行することで肝臓内にTH17細胞という自己免疫疾患や炎症性疾患に関わる免疫細胞が増殖し、肝臓や胆管に炎症を起こす。
・大腸と腸間膜リンパ節は繋がっていないのに、クレブシエラ菌はどうやって腸間膜リンパ節に移行したのか?→PSC患者さんの大腸にいるクレブシエラ菌は大腸上皮細胞をアポトーシス(細胞死)に導き大腸の上皮に穴を開ける能力を持っていて、その穴から腸間膜リンパ節に移行した。
・この大腸上皮細胞に穴を開ける能力は、同じクレブシエラ菌でも、健康な人やPSCでは無い潰瘍性大腸炎の患者さんが持っているクレブシエラ菌にはない。
・マウスにおいて、抗菌薬を使いクレブシエラ菌を排除する事で肝臓でのTH17細胞を大幅に減少させる事が出来た。
また、TH17細胞を抑える働きのある薬を使ったところ、モデルマウスで起こした肝硬変の程度が半減した。
・クレブシエラ菌の排除に抗菌薬を使用すると耐性菌を生む危険性がある。
・抗菌薬の代わりにバクテリオファージ(※1)という哺乳類の細胞には感染せず細菌に感染し壊すウィルスを利用し、病原性のあるクレブシエラ菌をターゲットとしたバクテリオファージ製剤を作りPSC患者さんに口から飲んでもらう。
(※1)細菌に感染するウィルスの総称
・この薬を作るために、イスラエルのバイオベンチャー企業(※2)と共同で、バクテリオファージを用いた治験に取り組んでいる。これまでに、イスラエルと欧州の健康な人たちを対象にした第一段階の治験を終えた。
(※2)BiomX Ltd.(本社:Ness Tziona, Israel、CEO Jonathan Solomon
以下、記事の一部引用

免疫の難病、実は感染症? なぞ解き明かす一歩に 金井隆典さん

私たちは、研究テーマの一つとして、「原発性硬化性胆管炎」という病気の解明に挑んでいます。

 胆管は、肝臓でつくられる消化酵素である胆汁の通り道で、十二指腸につながっています。その胆管に炎症が起き、数年から数十年かけて胆管が狭くなって胆汁がうまく流れなくなるとともに、肝臓の働きが落ちてしまう病気です。英語の病名Primary Sclerosing Cholangitisの頭文字から「PSC」とも呼ばれています。

 PSCは原因がよくわかっておらず、進行を止める治療法も確立していません。最終的には肝硬変へと進み、命を救うには肝臓移植をするしか方法がなくなることが多いです。しかも、せっかく移植をしても、再発してしまうことが少なくありません。いわゆる難病に指定されており、日本には約5千人の患者さんがいます。

 この画像は、そんなPSCの病態を解き明かす手がかりをつかんだときのものです。

 この病気では、肝臓の中で免疫の細胞が活性化していることがわかっています。ところが、過剰な免疫の働きを幅広く抑える作用があるステロイドが効きません。いまは特定の免疫の作用を抑える「抗体医薬」がいくつか登場し、やはり過剰な免疫の働きがかかわる関節リウマチやクローン病などで効果を示していますが、PSCではまったく効きません。

 PSCを起こしている人は、大腸の炎症である「潰瘍(かいよう)性大腸炎」を伴いやすいことが、以前から知られていました。また、腸内の細菌がPSCと関係していることを指摘する論文も出ていました。私は、腸内細菌がPSCと関係があるのかをまず知りたいと思いました。

 そこで、次のような実験をしました。PSCの患者さんから便をいただいて、微生物をもたない「無菌マウス」に経口注入し、大腸や肝臓の様子を調べるのです。比較のため、健康な人や潰瘍性大腸炎の患者さんの便も無菌マウスに注入しました。

肝臓で免疫細胞が増加

 すると、健康な人や潰瘍性大腸炎の便では起きないのに、PSCの便を注入したときは、肝臓内で特殊な免疫細胞が増えていることがわかりました。これはT細胞の一種で、インターロイキン17(IL-17)を産生することから「TH17細胞」とも呼ばれています。PSCの便に含まれる腸内細菌によって、肝臓の免疫反応が異常になっていたのです。

 私たちは、腸内細菌が十二指腸から胆管を逆流して肝臓に達し、肝臓や胆管で炎症を起こしているのではないかと考え、いろいろな方法で調べてみました。しかし、何回みても、どちらにも腸内細菌はみつかりませんでした。

 このとき、比較のために脾(ひ)臓や「腸間膜のリンパ節」と呼ばれる腸に関係するリンパ節も調べていました。すると、腸間膜リンパ節で菌が3種類、検出されたんです。

 このことは、免疫の難病といわれるPSCに、腸内細菌がかかわっている可能性を示しています。これって驚きですよね。従来の免疫の病気の常識からは外れていますから。

 ただ、腸間膜リンパ節は、大腸の空洞とは直接つながってはいません。じゃあ、細菌はどうやって移動したのか。その謎を調べたときに撮影したのが、この画像です。

 共同研究した佐藤俊朗教授たちのグループがもっている、「オルガノイド培養技術」を用いました。オルガノイドというのは「培養細胞」を意味していて、この方法なら、幹細胞をもとに、培養皿の上で実際の大腸上皮とよく似た構造をつくることが可能です。

大腸の壁に穴を

 そこで、PSC患者さんから得た腸内細菌と、オルガノイド大腸上皮を一緒に培養して調べたところ、PSC患者さん由来の「クラブシエラ菌」という腸内細菌が、大腸上皮の細胞死(アポトーシス)を引き起こし、上皮に穴を開けていたことがわかりました。

 画像で黒く見えるのが腸の粘液、赤い部分が腸内細菌です。緑が上皮細胞で、赤い細菌が上皮細胞の中に侵入していっている様子を示しています。PSCでない人から得た同じ種類の腸内細菌では、上皮細胞に穴を開けることはありません。

 PSC患者さん由来の腸内細菌は、こうして大腸の壁を開けて外に飛び出し、腸間膜リンパ節に達していたんです。それに対応して、TH17細胞が増えていることが明らかになりました。こうしたしくみによって、肝臓での異常な免疫反応を招き、胆管炎につながっていた、と私たちは考えています。

 治療法の検討もしました。PSCは、せっかく肝移植をしても再発しやすいと言いましたよね。リンパ節にいる腸内細菌がもとで炎症が起きているのだとしたら、その腸内細菌がとどまっている限り、移植のあとに再発したとしても不思議ではありません。

 そこで私たちはまず、PSC患者さんの便を注入したマウスに抗菌薬を使い、クレブシエラ菌などを排除しました。すると、肝臓でのTH17細胞が大幅に減りました。また、TH17細胞を抑える働きのある薬を使ったところ、モデルマウスで起こした肝硬変の程度が半減しました。

 その後、欧米の研究者たちによって、PSCが特殊な病原菌によって起こされるという報告が相次ぎ、私たちの発見の正しさが確かめられています。そしていま、治療につなげるための本格的な研究の段階に進んでいます。

 それは、バクテリオファージという、ウイルスの一種を用いる方法です。

ウイルスを治療に活用

 バクテリオファージは細菌に感染し、細菌の中で増殖して、最終的に細菌を壊します。この性質を利用して、病原性のあるクラブシエラ菌をターゲットにしたバクテリオファージの製剤をつくり、患者さんに口から飲んでもらうのです。

 細菌の治療なのだから抗生物質を飲めばいいと思われるかもしれません。ただ、この菌は抗生物質でたたき切れないと、耐性菌を生んでしまうことが多いんです。実際、多剤耐性となったこの菌が病院での院内感染の原因となることが少なくありません。

 一方、バクテリオファージはウイルスの一種とはいえ、細菌には感染するものの哺乳類の細胞には感染しません。従って、人体に対しての安全性は高いと考えられています。

 いま、私たちは、イスラエルのバイオベンチャー企業と共同で、バクテリオファージを用いた治験に取り組んでいます。これまでに、イスラエルと欧州の健康な人たちを対象にした第一段階の治験を終えました。できれば今年中に、PSCの患者さんを対象とした次の段階に進みたいと考えています。

 PSCはいわゆる「免疫の病気」だと、長いあいだ信じられてきました。私たちの今回の研究は、PSCは実は感染症だった可能性を示していると考えています。


科学研究費助成事業データベースに記載されているこの研究の実績概要や達成度の報告には
「PSCノトバイオートマウス(※3)にバクテリオファージを3日1回のペースで経口投与し、胆管炎の改善傾向を認めた
「ファージ療法開発の動物実験を開始し、ファージ療法による病態改善に向けた有望な結果が得られている
等、期待の持てる内容が書かれていました。
(※3)ノトバイオート(英:gnotobiote)とはもっている微生物叢が全て知られている動物。外科的手術により母獣より無菌的に取り出した胎子をアイソレーター内の無菌環境下で人工保育することにより得られた無菌動物に既知の微生物を投与、定着させることにより作出される。
以下一部抜粋
(前略)

本計画が承認されてから2年間の実績としては、PSC患者由来KPを用いたノトバイオートマウスにおいて、DDC胆管炎を実験的に発症し、PSC/UCモデルを作成した。PSC/UCモデルマウスに対してKPに対する特異的バクテリオファージの投与による胆管炎改善効果の検討を行った。PSCノトバイオートマウスにバクテリオファージを3日1回のペースで経口投与し、胆管炎の改善傾向を認め、今後追試により検証してく。さらに、クローン病患者由来便を用いて、ヒトクローン病フローラ化マウスを作製し、糞便移植3週間における体内侵入菌の分離培養に成功し、次年度にさらなる機能解析を進める予定としている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究の要となる、ファージ療法開発の動物実験を開始し、ファージ療法による病態改善に向けた有望な結果が得られている。また、腸管免疫難病であるクローン病患者便を用いたノトバイオート動物の解析も順調に進んでいる。

今後の研究の推進方策

本年度の成果をもとに、Klebsiella pneumoniae(KP)の腸管バリア破綻機構の解明を進めていく。具体的には、PSC患者由来KP(9株)と非PSC患者(non-PSC)由来KP(4株)についてショットガン・メタゲノミクス解析を実施し、患者由来KPが粘膜層および上皮障害を及ぼす責任遺伝子の候補を探索し、引き続き候補遺伝子の変異株を作成し、腸管上皮障害能を検証していく。さらに、リンパ節内で分化・誘導されたTh17細胞が肝臓内へ蓄積する機序、Th17細胞のPSCにおける機能解析を行うために、腸管膜リンパ節におけるTh17細胞のRNA-seq、TCR-seq解析からKPの抗原および代謝産物の関与について検討を行う。クローン病患者フローラ化マウスと腸炎モデルの組み合わせを実施し、腸炎病態増悪効果について検討を進めていく。


以下は医学的知識の無いブログ主の勝手な想像ですが、病原性のクレブシエラ菌が大腸上皮細胞に穴を開ける能力を有しているのはエクソソームが関与しているような気がします。
以前、間葉系幹細胞由来のエクソソームによる治療で肝臓を再生できるという内容のTV番組についての記事を投稿したのですが、その際にエクソソームについて色々なサイトの記事を読んでいたら、
「卵巣がん細胞が分泌するエクソソームは腹膜の主要構成細胞である中皮細胞を細胞死へと誘導し、腹膜を破壊することにより、腹膜播種性転移を促進していた」という報告を目にしました。
がん細胞は他の臓器や組織に転移する際、予め転移先の環境をがん細胞が成長しやすいものに変えておくそうです。
その際にエクソソームという細胞間の情報伝達物質を放出し、ターゲットとする細胞に情報を伝えコントロールします。
クレブシエラ菌の大腸上皮細胞を細胞死に導き穴を開ける能力(pore-forming能)がクレブシエラ菌の細胞が放出するエクソソームに由来するものであるならば、「近年、エクソソームを標的としたがん治療の研究が進められ、特定のエクソソームの除去を行うことが将来的に可能となることが期待される」との事なので、PSCの治療は
①原因菌のクレブシエラ菌の排除
②クレブシエラ菌に由来する大腸上皮細胞をアポトーシス(細胞死)に導くエクソソームの排除
の2つのアプローチから可能になるのでは無いかと予想します。

肝臓移植後の免疫抑制剤の服用が不要になる薬 JB-101が2026年に承認予定

肝臓移植を受けた方が生涯に渡って服用しなければならない免疫抑制剤が不要になる薬JB-101(誘導型抑制性T細胞)を日本移植学会後援のもと、順天堂大学 健康総合科学先端研究機構と順天堂大学発のベンチャー企業であるJYUNTEN BIOが共同開発中との事。
 
 
2020年に厚生労働省の先駆け審査指定制度の対象品目の指定され、治験が開始され、2025年に承認申請、2026年に薬事承認と実用化を見込んでおられるそうです。承認されれば、全ての医療施設へ届けることが可能となります。
 
 
今現在はこれから肝移植を受ける方を対象として治験が行われているようですが、奥村特任教授は対談の中で
「次のステップは、すでに免疫抑制剤を飲みながら長く生活されている方々から薬をゼロにできないか、ということです。我々の夢であり、必ずそういう時代が来ると私は信じています。」
と仰られています。
免疫抑制剤を飲み続ける事で感染症や発癌のリスクを抱えながら移植後の生活を送っておられる患者さんを思うと1日でも早くこの薬が実用化され、副作用から解放された穏やかな生活を送れる日が来る事を願ってやみません。
 
 
更に、この免疫寛容プロジェクトでは、生体肝移植を受ける患者さんだけではなく、他の臓器移植や脳死・死後移植を受ける患者さんにもこの治療法が応用できるか、また臓器移植のみならず、自己免疫疾患やアレルギー疾患などへもこの治療法が応用できるかも研究されているようです。
 
このプロジェクトで開発されているJB-101(誘導型抑制性T細胞)は、免疫反応を有益なものまで全て止めてしまうのではなく、免疫細胞による攻撃を抑制する対象を選択出来るものらしいので、将来的にもっと研究が進めば、移植臓器に限らず、自己の臓器に対するT細胞の攻撃も抑制出来るようになって、PSCのような自己免疫疾患に対する治療薬にも成り得るのではと期待します。
 
JB-101(誘導型抑制性T細胞)の作り方についてですが、免疫反応に関わるT細胞を活性化して攻撃的にするCD80とCD86という共刺激分子があるのですが、このCD80とCD86に結合して共刺激を遮断し、T細胞を反応させないようにする抗CD80/CD86抗体と一緒に、ドナーさんのT細胞と患者さんのT細胞を培養するとお互いを「異物ではない」「共存できる」と認識し、ドナーさんのT細胞が敵ではないと学習した患者さんのT細胞(誘導型抑制性T細胞)を移植手術後の患者さんに投与すると、ドナーさんの移植臓器が敵ではないという情報が体中に伝わり、拒絶反応を防ぐ事が出来るそうです。
 
ここで、抗CD80/CD86抗体の存在下で患者さんのT細胞と一緒に培養するのが、ドナーさんのT細胞では無く、ドナーさんの臓器の細胞組織であったならば、話は単純で、PSC治療においても同様に、「PSCの患者さんのT細胞とPSC患者さんの肝臓や胆管の細胞を抗CD80/CD86抗体の存在下で共培養すれば、肝臓や胆管がT細胞によって攻撃されなくなるのでは?」と思えるのですが、実際に共培養するのは、ドナーさんと患者さんのT細胞同士のようなので、「CD80/CD86による刺激のない場所でT細胞と共培養された細胞は、T細胞に異物と認識されなくなる」といった簡単な仕組みでは無いようです。記事からは選択した対象が攻撃の標的から外れる仕組みについて詳細な事は読み取れないので、ブログ主の勝手な想像になりますが、「CD80/CD86による刺激が無い環境で共培養されたT細胞はお互いを異物と認識しなくなり、情報を共有するようになる。それによって、ドナーさんのT細胞にとって敵ではないドナーさん由来の肝臓は患者さんのT細胞にとっても敵ではなくなる。」といった感じでしょうか、、、。
 
記事には
「誘導型抑制性T細胞が免疫寛容を誘導するしくみの詳細はまだはっきりとはわかっていません。」
とあるので、研究者の方々にもまだ誘導型抑制性T細胞で将来的に何が治療出来て何が治療出来ないのかについてはっきりと見通す事は出来ないのかも知れません。
 
しかし、いつか研究が進み、その仕組みが解明された時、誘導型抑制性T細胞はPSCを含む多くの自己免疫疾患を治癒する救世主になれる可能性を秘めた革命的な薬だと思うので、そんな日がやって来るのを期待して情報を追っていこうと思います。
 
 
 
 
 
記事の一部抜粋