ケモマブ・セラピューティクス社がPSCの新規治療薬CM-101を開発中

イスラエルのバイオ医薬品会社のケモマブ・セラピューティクス社がCCL24を治療標的としたPSCの治療薬を開発中とのことです。
 
まずは、CCL24が何であるか、PSCに対してどのような影響を与えているのかについての論文の概要を紹介します。
 
CCL24は原発性硬化性胆管炎における胆道の炎症と線維症を統制する
 
概要
 
CCL24 は、いくつかの慢性線維性疾患で発現する線維化促進性、炎症促進性のケモカイン(※注1)です。肝臓では、CCL24 が線維化と炎症に関与しており、実験モデルでは CCL24 を遮断すると肝臓損傷が減少しました。われわれは原発性硬化性胆管炎(PSC)におけるCCL24の役割を研究し、この疾患においてCCL24をブロックする事の潜在的な治療効果を評価した。多剤耐性遺伝子 2 ノックアウト(不活性化) マウスは肝臓マクロファージで CCL24 発現を示し、関連する実験用 PSC モデルとして使用されました。CCL24中和モノクローナル抗体(※注2)CM-101は、胆道領域の炎症、線維症、胆汁うっ滞関連マーカーを大幅に改善しました。さらに、空間トランスクリプトミクス(※注3)を使用して、CCL24の中和後の胆管細胞の増殖および老化の減少を観察しました。次に、我々は、線維化促進条件下で初代ヒト胆管細胞およびマクロファージにおけるCCL24発現が上昇し、初代ヒト肝星細胞および胆管細胞の増殖を誘導し、CCL24阻害後にその増殖が減弱されることを実証しました。同様に、CCL24 は PSC 患者の肝生検で高度に発現していることが判明しました。CCL24血清レベルは肝線維症増強スコアと相関しており、アルカリホスファターゼレベルが高い患者で最も顕著です。これらの結果は、CCL24 をブロックすると、肝臓の炎症、線維症、胆汁うっ滞を軽減することにより、PSC 患者に治療効果がある可能性があることを示唆しています。
 
 
(※注1)ケモカイン:サイトカインの一種であり、ケモカイン受容体と結合し、白血球の遊走を誘導するタンパク質。白血球を呼び寄せることで炎症反応に寄与する。
 
(※注2)モノクローナル抗体:抗原にあるたくさんの目印(抗原決定基)の中から1種類(モノ)の目印とだけ結合する抗体を、人工的にクローン(クローナル)増殖させたもの
 
(※注3)空間トランスクリプトミクス
空間的遺伝子発現解析。組織切片をmRNAキャプチャー用プライマーがスポットされたスライドグラス等に貼り付け、スライド上で組織溶解・mRNA補足・cDNA合成を行うことで、組織中における位置情報を保持した網羅的遺伝子発現情報を得ることができる技術。
 

続いては、ケモマブ社によるCM-101の臨床試験についてのページを紹介します
 

 

 

 

 
ケモマブはPSC治療用に開発した新規生物製剤CM-101を試験中:
 
CM-101 は、可溶性タンパク質 CCL24 を標的とします。CCL24 は、受容体 CCR3 を介して肝臓の線維化および炎症活動を促進する上で極めて重要な役割を果たすことが判明しています。
 
ケモマブは、CCL24 が PSC 患者の肝臓サンプル (生検) で強く発現しており、血中の CCL24 レベルが肝線維化の状態と相関していることを実証しました。
 
ケモマブは、複数の PSC 動物モデルで CM-101 の前臨床試験を実施し、CM-101 が有効であり、疾患の重症度を大幅に軽減することを発見しました。
 
ケモマブはまた、健康なボランティアと非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)患者でCM-101をテストし、CM-101はテストされたすべての用量で安全で忍容性が高いことを確認しました。今回の研究で初めて、ケモマブは PSC 患者の治療における CM-101 を評価します。SPRING研究では、成人 PSC 患者を対象に CM-101の安全性と忍容性をテストします。
 
これは第 2a 相試験であり、試験薬 (CM-101) またはプラセボ(偽薬)のいずれかを 12 週間にわたって 3 週間に 1 回、5 回の静脈内注入を投与します。オプションで、すべての患者が CM-101 の投与を受ける 33 週間のオープンラベル(非盲検試験)延長期間もあります。
 

 
続いては、CM-101についての投資家向けの広報資料を紹介します。
ここではCM-101の治療標的であるCCL24とPSCとの関連性を示す裏付けが更に強化されたこと、CCL24によって誘導されたPSC重症化因子の増加をCM-101がブロックした事などが発表されています。
 

 

 

 

 
ケモマブ・セラピューティクス、EASL(欧州肝臓学会) 2023で原発性硬化性胆管炎の新規治療法としてCM-101の臨床的可能性を補強するデータを発表
 
— 新しいプロテオミクス(※注4)データにより、CM-101 の 標的であるCCL24 と原発性硬化性胆管炎 (PSC) 疾患経路との関係がさらに確認されました —
 
–CM-101がCCL24レベルの上昇によって引き起こされる線維性疾患および炎症性疾患のプロセスを中断するというさらなる証拠を提供–
 
(※注4)プロテオミクス(proteomics)とは、生物の細胞や組織、生体液中に含まれるすべてのタンパク質(プロテイン)の種類や量、構造、相互作用、機能などを総合的に解析する技術や学問分野の総称。生物の細胞や組織などに存在するすべてのタンパク質を「プロテオーム」と呼ぶ。
 
イスラエルのテルアビブおよびウィーン、 2023年6月26日/ PRNewswire / — ケモマブ・セラピューティクス Ltd. (ナスダックにおけるティッカーシンボル: CMMB)、(Chemomab)は、高い必要性が有りながら満たされていない、希少な線維性―炎症性疾患を治療するための革新的な治療法を開発する臨床段階のバイオテクノロジー企業ですが、本日、 2023年6月21~24日にオーストラリアのウィーンにおいて開催された欧州肝臓学会年次総会であるEASL 2023において、同社の原発性硬化性胆管炎(PSC)プログラムの臨床的根拠を裏付ける2枚の科学ポスターを発表したと報告しました。
 
「EASLで発表された前臨床データは、CCL24がPSCにおける疾患症状の操縦者であることを示唆する包括的かつ一貫した一連の証拠をさらに補強するものである。このデータはまた、当社のファーストインクラス(※注5)のCCL24中和抗体であるCM-101のPSCやその他の線維性疾患の根底にある線維性―炎症性の悪循環を断つ能力を強調している。 」とケモマブの共同創設者兼最高経営責任者兼最高科学責任者であるAdi Mor博士は述べました。「これらのデータは、先週最新のEASLポスターで報告した第2a相(←臨床試験の段階。第2相はフェーズaとbに分けられる事が多い)肝線維症バイオマーカーの肯定的なデータと合わせて、CM-101を効果的な治療法のないこの深刻な疾患の将来性のある治療法として評価するための私達の全世界的な第2相PSC試験への熱意をさらに高めます。」
 
 
(※注5)ファースト・イン・クラス(First In Class:FIC)とは、画期的医薬品のこと。そのカテゴリーの医薬品の中で、最初に認可された新薬を指す。
 
ポスターの 1 つは、炎症促進性、線維化促進性シグナル伝達タンパク質 CCL24 と PSC 疾患関連経路との直接的な関係を実証する新しいプロテオミクス研究について報告しています。CCL24 は PSC 患者の肝臓、特に胆道損傷領域で過剰発現します。この研究では、PSC患者と健康な対照からのプロテオミクスデータを分析することにより、CCL24がPSCとその関連経路において重要な役割を果たしていることが確認されました。CCL24レベルが高い患者では、PSCおよび疾患の重症度に関連する経路が上方制御されていることが判明しました。CCL24 レベルは、炎症、線維症、血管新生に関連する血清タンパク質とも有意に相関していました。さらに、新しい in vitro(試験管内の) 研究では、CCL24の刺激を受けた肝線維芽細胞は、重度の PSC 患者に見られるものと同様のタンパク質の増加を示しました。これらのタンパク質は、PSC 患者を健康な対照と区別し、また、症状の重症度によって彼らを区別するためのサインとして機能します。
注目すべきことに、この研究では、CM-101による治療がこれらのCCL24によって誘発された、(PSCと重症度の)サインとなるタンパク質の発現の変化をブロックしました。
 
 
EASLカンファレンスで発表された別のポスターでは、ケモマブが現在進行中のPSC患者を対象とした二重盲検、プラセボ対照、複数回投与のCM-101第2a相試験の臨床設計とエンドポイント(評価項目)について説明しました。この試験のトップライン結果(※注6)は 2024 年後半に発表される予定です。
 
(※注6)トップライン結果とは、通常、臨床試験の結果が事前に設定された主要評価項目に達成したか否かを評価するための、ハイレベルな結果のことを言います。
 
「これらのポスターは、PSCの効果的な治療法としてのCM-101の可能性を裏付ける前臨床的証拠を補強するものであり、このProof of Concept(※注7)臨床試験の結果を楽しみにしている私たちにとって心強いものです」と医学博士であり、2枚のポスターの共著者であり、PSC第2a相臨床試験の共同研究者であり、臨床肝臓専門医、医学部教授であり、UCL肝臓・消化器健康研究所所長であり、ロンドン大学のシェイラ・シャーロック肝臓学教授でもあるマッシモ・ピンザーニ氏は述べました。「この試験の結果は、炎症性および線維性疾患におけるCCL24の役割をさらに解明し、この治療が不十分な状態におけるCM-101の治療可能性を早期に実証し、将来の臨床研究への情報提供に役立てることを目的としています。予想通り、最近予定されていたデータ監視委員会の中間会議では安全性の懸念は見つからず、臨床チームは来年後半のトップラインデータの読み出しに向けて突き進んでいる。」
 
ポスターは今週から Chemomab の Web サイト ( www.chemomab.com/rd/)で公開されます。
 
(※注7)研究段階で構想した薬効がヒトでも有効性を 持つことの確認をProof of Conceptと呼ぶ。

 
また、次の記事によると、ケモマブ社は、CM-101のデータが非アルコール性脂肪性肝炎に関しても肯定的であるにも関わらず、非アルコール性脂肪性肝炎に対するCM-101を用いた治療の開発を一旦保留し、同社のリソースと CM-101 の開発をPSCに集中させることを決定した、とあるので、CM-101のPSC治療薬としての成功に高い自信を持っていることが窺えます。

 

 

 
ケモマブ、NASH ではなく PSC で CM-101 を前進させる
 
ケモマブは、NASH のデータが肯定的であるにもかかわらず、リソースと CM-101 の開発を希少肝疾患に集中させることを決定しました。
 
ウルテ・フルティナビチュテ著
 
Chemomab Therapeutics は、非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) の治療を保留し、原発性硬化性胆管炎 (PSC) における CM-101 の開発に焦点を当てていると CEO の Adi Mor 博士が Clinical Trials Arena に語った。
 
CM-101 は、線維化炎症プロセスにおける重要な調節因子である CCL24 活性に結合してブロックするように設計されたファーストインクラスのヒト化モノクローナル抗体です。
 
Mor氏は、NASH第IIa相臨床試験では有望な結果が得られたものの、同社はリソースとPSCにおける膨大な前臨床データに基づいてギアを切り替えていると説明した。
 
彼女は、「この第 IIa 相 NASH 試験のデータは、PSC で期待されるものに大いに応用可能であることがわかりました。」と述べました。
 
ケモマブは現時点では NASH の追跡を中止しているが、同社は将来、パートナーシップやその他の機会を通じて、この適応症に戻ることを検討する可能性があります。
 
CM-101の次のステップ
 
CM-101は現在第IIa相PSC試験で研究中であるが、ケモマブは2025年に開始予定日を予定し、重要となる可能性のある第III相試験の計画を立て始めている。
 
治験の正確な投与計画と期間は、第 IIa 相治験のデータのみに依存するとMor氏は宣言した。同社は、2024 年下半期にトップライン データを発表する予定です。
 
Mor氏は、評価項目に関して、いくつかの後期段階の試験では、フォーク博士が実施中のノルウルソデオキシコール酸研究(NCT03872921)や中止されたギリアド社のシロフェクソール(NCT03890120)などのように、肝生検を含むエンドポイント(評価項目)が使用されたと説明しました。
 
しかし、とりわけPSCのような斑状疾患において危険が生じる可能性のある肝生検に必ずしも由来する必要のない潜在的なエンドポイント(評価項目)について規制当局と議論が進行中です。Mor氏は、新しいエンドポイントは画像とバイオマーカーの組み合わせであるか、単に色々なバイオマーカーのみである可能性があると述べました。
 
Mor氏は、「第 IIa 相試験のデータが確認できたら、FDA と協議し、私達の第 III 相試験の適切なエンドポイントが何であるかを彼らと共に決定します。」と述べました。
 
PSCで進行中の第IIa相試験
 
最近、ケモマブは、2023年の欧州肝臓研究学会(EASL)年次総会で、PSCプログラムの臨床的根拠を裏付ける2枚の科学ポスターを発表しました。ポスターのうちの1枚は、2部構成の第IIa相試験のデザインについて考察したものでした。 (NCT04595825)。
 
試験の最初の部分は、15週間の治療を行う二重盲検期間であり、その後に非盲検部分が続きます。ケモマブは、線維形成と炎症を測定するさまざまなバイオマーカーに注目しています。同社は2021年に最初の患者を治験に登録しました。
 
ケモマブは、ヨーロッパ、イスラエル、米国の約50施設で68人の患者を募集する予定です。
 
Mor氏は、「これは稀な病気なので、効率的に患者を募集できるようにするために、複数の地域で複数のサイトを開設しました。」と説明しました。
 
 


現在はまだ効果的な治療法のないPSCですが、近年、上記のようにLLC24を標的としたケモマブ社のCM-101やクレブシエラ・ニューモニエ菌を標的とした慶應義塾大学のバクテリオファージ療法など、PSCやその症状の原因となる物質に直接アプローチする治療薬の開発が進んでおり、有効なPSC治療確立への道がゆっくりとではありますが、拓けつつあるように感じます。