慶応義塾大学が開発中のPSCの新薬について続報が発表されました。
〔報道発表資料〕
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2023/6/27/230627-2.pdf
(前略)
慶應義塾大学医学部内科学教室(消化器)の中本伸宏准教授、金井隆典教授らの研究グループは、肝移植以外に有効な治療法が少ない難治性自己免疫性疾患である原発性硬化性胆管炎(PSC)患者の腸内細菌を解析し、クレブシエラ菌とエンテロコッカス菌が高率に検出されることを確認しました。さらに、イスラエルの BiomX 社との共同研究のもと、患者から分離したクレブシエラ菌を特異的に排除するバクテリオファージ(細菌に感染するウィルスの総称)カクテルの作製に成功し、マウスにこのバクテリオファージを投与するとクレブシエラ菌の腸内への定着が抑制され、クレブシエラ菌により誘導された胆管障害が減弱することが示されました。

本研究成果は、2023 年 6 月 5 日(英国時間)に国際学術雑誌 Nature Communications のオンライン版に掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s41467-023-39029-9
(中略)
細菌の増殖を抑制し殺菌する手段として抗菌薬が日常診療で広く用いられていますが、長期間の使用による多剤耐性菌の出現や院内感染が大きな問題となっています。本研究グループはこの問題を打破するために、特定の病原細菌のみを選択的に殺菌可能であり、耐性菌の出現頻度が低いバクテリオファージの作製に着手しました。イスラエルの BiomX 社との共同研究のもと、自然環境に存在するクレブシエラ菌を標的とするファージを複数組み合わせることにより、培養液中のクレブシエラ菌の増殖を長期間抑制し続けるファージカクテルの作製に成功しました。次にクレブシエラ菌を腸内に定着させたマウスにこのファージカクテルを週 2 回合計 4 回投与し、その体内での菌の増植の抑制効果の有無を 14 日目に検討しました。その結果、便中のクレブシエラ菌はファージの投与後その数が劇的に減少することが示され、この効果が 28 日目まで持続することを確認しました(図 3)。


https://www.asahi.com/articles/ASQ314QKKQ2XULBJ00L.html
動物実験ではありますが、2週間(2回投与/週)(追記:後で論文を確認したところ、肝硬変と線維化の改善を調べる実験の期間は3週間でしたので訂正いたします)という短期間で肝硬変(線維化)が50%も改善したのは既存の治療では不可能な劇的な改善効果だと思います。今後、国内外の患者さんの解析を行うと共に、複数のクレブシエラ菌を網羅的に排除する新たなファージカクテルを用いた治療の研究も進められて行くようです。この非常に高い有効性を持つ新たな治療法が、標準治療としてPSCの患者さんが当たり前の様に利用出来るようになる日が1日も早くやって来る事を願います。